風そよぐ83

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 下柳が腕をぐんと伸ばして首をぐりぐり回すのを見たスタッフは、編集作業も一段落らしいと肩の力を抜いた。
 下柳は集中していると、普段は翁のような害のなさそうな風貌が金剛力士像みたいな形相でモニターにかじりついているので、スタッフも下手に声をかけづらいところがあった。
 そんな下柳が肩を回したりし始めればやっと一息つけるのが、このチームのサインのようになっている。
「今日のところはこれで上がりにするか」
 既に夜の十一時を過ぎたところだが、スタッフにとってはまだ早い方だ。
 良太も、下柳ほどではないがじっと画面に見入っていたので、ふうっと大きく息をついた。
「良太ちゃん、明日から京都だって?」
「ええ」
「明日、何時? 新幹線?」
「ええ、品川を朝九時頃には」
「ふーん、だったら、ちょっと付き合えよ」
「え、今からですか?」
 これから下柳と飲みというのは、良太にとってあまり歓迎しないものだった。
 猫たちの世話をして風呂に入って、とにかくしっかり寝たかった。
 ここ数日睡眠時間が短くなっていて、昨夜は三時間だ。
 それで朝からプラグインの藤堂やデザイナーの佐々木と一緒にCMの編集作業に立ち会ってから、こちらにまた顔を出したのだ。
「何、ちょっとだけ、な?」
「はあ……」
 気が進まないものの、良太は下柳と、下柳行きつけの小料理屋に向かった。
「まあ、飲めよ」
 カウンターの左隅が下柳の定位置で、下柳はとくりを傾けて良太のお猪口に酒を注いだ。
「いただきます」
 良太はお猪口を口に持って行った。
「で?」

 


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