風そよぐ90

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 戻ってきた秋山と一緒に弁当とお茶をみんなに配ると、良太は隅の方にあった椅子に座り、稲荷ずしに箸をつけた。
 以前食べた時は美味いと思ったはずが、疲れもあるのかさほど味がわからず、もそもそと咀嚼する。
 戻ってきた秋山はどうやらアスカの部屋を変えるためにわざわざホテルに行ったにもかかわらずどうやら徒労に終わったらしい。
 さっきからプンスカ怒っているアスカを宥めにかかっている。
 ひとみは須永に頭がすっきりしないからと、コーヒーを買ってくるように頼んでいた。
 良太もうすぼんやりとした頭まで重くなってきて、コーヒーでも飲むか、などと考えていた時、広瀬さん、と上から声が降ってきた。
 まともに広瀬さんなんて呼んでくれるのは、数えるほどしかいない。
 案の定、本谷がにっこり笑いかけていた。
「よかったら、どうぞ」
 差し出されたのはドリンク剤だ。
「俺、疲れてる時とかよく飲むんですよ」
「あ、りがとうございます」
 良太が礼を言うと、ここいいですか、と本谷が隣に腰を降ろした。
「俺、営業やってた時も、飛び込みとかもやってたから、怒鳴られたり、何でそこまで言うかなと思うような罵声を浴びせられたりしたんですよ。もうだめだとか思って落ち込んでた時、先輩がドリンク剤くれて、疲れた時だけじゃなくて、心がへたってる時も効くぞって」
「なるほど……営業とか大変そうですもんね」
 心の中で、この人、だから気配りできるいい人なんだ、と良太は改めて思う。
「いや、広瀬さんも工藤さんも、もっと大変そうですよね。この業界って特に人との辛みが全てって感じだし」
 人との絡みが全てか、撮影だけに関して言えば、ま、そうだよな。
 良太はぼんやり頷いた。
「昨日の夕方、立ち寄って下さった時、工藤さん、かなりお疲れみたいでしたし」
 いきなり良太の頭は覚醒した。

 


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