ホテルのレストランで食事をした後のことだ、エレベーターに乗ろうとしたアスカが聞いてしまったのだ。
「すみません、ありがとうございます、工藤さん」
工藤? 本谷、工藤なんかと電話してるの?
何かしら気になったアスカは、その声の方へこっそり近づいた。
エレベーターホールの向こう側にある薄暗いスポットで、壁にもたれて携帯を握っていたのは本谷だった。
「あーあ、でも、やっぱ、好きなんだよな、工藤さん」
その時本谷の口から洩れたセリフに、思わず声を上げそうになるのを必死で抑えて、アスカはエレベーターからゆっくり離れた。
絨毯が足音を消してくれたのが幸いして、本谷が陰から出てきたところにさも今来たかのように声をかけた。
「あら、本谷くん、もうご飯食べたの?」
そこは長年の経験をつんだ女優である、すました顔で微笑んだ。
「あ、いえ、あんまり食欲なくて」
「だめよ、本谷くん、ゲスト主役なんだから、ちゃんと食べないと、撮影も力入らないよ」
「はい、ありがとうございます」
心なしか憂いを含んだ笑みを浮かべ、本谷はアスカに続いてエレベーターに乗り込んだ。
「お休みなさい」
「お休み、ちゃんと寝るのよ」
本谷が先に降りると、自分の部屋がある階に着くのを待ちきれず、アスカは携帯でひとみを呼び出した。
「謎が解けたわ! とんでもないことになってるのよ!」
それからひとみの部屋に飛んで行ったアスカはひとみと二人で、ああでもないこうでもないと話し込んだ。
「まさかと思うけど、工藤さん、心変わりとか、ないわよね」
アスカが難しい顔で言った。
「うーん、どっちかっていうと、良太ちゃんが高広と本谷のことを邪推してってより、思い込んでるって気がする」
ひとみは幾分冷静に判断した。
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