「もし、万が一にも心変わりとかなんて、あたし絶対許さないから!」
アスカは両方の拳を握り、声を大にして宣言する。
「まあ、とにかく、明日、高雄に行って高広に問いただしてくるわ」
ふう、とひとみは息をついてから、そう言った。
「あたしは、明日、良太を捕まえて聞き出してやる。だってあの子、日に日にやつれてきてたのよ? やっぱ仕事だけのことじゃなかったのよ」
いつもはああしろこうしろと良太をいいように使っているアスカだが、良太は今やかわいい弟分、あくまでもアスカ側の見解だが、なのである。
その良太が思い悩んで引っ越しまで考えているのにと思うと、気が気ではないのだ。
「気になるのはトシちゃんよ」
ひとみがぽつりと言った。
「宇都宮さんがまさか良太をそういう目で見てるとは思わなかったわ」
「うーん、あの人、結構周り見てるからね、ひょっとして、高広と本谷のこと気づいているのかもよ」
随分長いこと良太と工藤のことで策を練った二人だが、これ以上話していても早朝からの撮影に支障をきたすだけだと、携帯の画面が午前三時を示す頃、アスカはようやく部屋に戻った。
それが昨夜のことだ。
昼に現れた良太は、さらにげっそりしたような顔をしていて、もうその場で問い詰めてしまいたいほどだったが、そこはじっと我慢しつつ、アスカは本谷の様子もうかがっていた。
良太に対する本谷は、誰が見ても好青年としか思えない雰囲気である。
無論、本谷は工藤と良太のことは知らないだろうし、良太は良太で、『田園』の撮影の時も飲み会の時も、竹野から毒舌を浴びせられている本谷をうまくフォローしていた。
でもいつ気づいたんだろう、良太。
ひょっとして工藤と本谷の何かを見てしまったとか?
「寝不足ですか?」
出番以外では、もうずっと想像をたくましくしながら、あくびを繰り返しているアスカに秋山が気づいた。
「ああ………ちょっとね、考え事してて」
「何か心配事でも?」
「う………ん………」
アスカは煮え切らない返事をする。
秋山さんに相談しても、当人同士のことですし、とか言いそうだしさぁ。
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