風そよぐ98

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「いや、俺だけじゃないっすから」
 早朝ロケが当然のようになったとか、声を上げると山々の間を余韻が走るだとか、撮影のあれこれをかいつまんで話してくれたが、志村も谷川もここ数週間、どっぷりと北山杉の中に埋没しているという感じらしい。
「小杉さんは?」
「ああ、工藤さんと監督とスケジュールのことで」
 すると、工藤と小杉がこちらにやってくるのがみえた。
「お疲れ様です」
 良太が声をかけると、「お、久しぶりだね、良太ちゃん」と小杉さんも笑った。
「烏丸の方も寄ってきたのか?」
 いつも通りの工藤の声に、「はい、街中は蒸し暑いですね」と良太はいつものように答えられたことにほっとした。
「撮影はどうだ?」
「順調のようですよ。山根さんと久保田さん、また面白いシチュエーションを考えてマンネリ防止するとかって」
「本谷はどうだ?」
 俺に聞くのかよ、とほんの一瞬躊躇したものの、「いい感じみたいです」と良太は応える。
「ひとみさんも、『田園』の時よりずっとよくなってるって」
「うーん、今回あいつがキーマンになってるからな。『田園』と比べていては話にならない」
 確かに、とそれは良太も頷くところだ。
 流も心配していたが、本谷の出来如何でドラマの仕上がりが左右されかねない。
 ううう、あの時千雪さんと二人、疲労困憊で、つい、テレビを指さしてその時出てきた人に決めたなんて、とても口が裂けても言えないぞ。
 千雪さんにも口止めしておかなけりゃ。
「来週は東京でもロケだったな。雰囲気だけじゃドラマは成り立たないんだ。科白の方ももう少しマシにやってもらわないと」
「はい、彼なりに努力してるようですが」
 出番がない時は奥の方で科白をブツブツと口にしているところもよく目にしていた。

 


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