これ、成功すればほんとに本谷も一皮むけるに違いないが、失敗するとドラマ全体にかかわってくる。
「努力だけじゃない、体当たりでやれって言っておけ」
「あ、はい………」
ヤバ……、本谷のデキも俺次第とか言わないでくれよ。
これはグチグチ、本谷がどうのと言ってる場合じゃないじゃんね。
今日戻ったら、ちょっと本谷捕まえて、もし捕まらなかったら、明日、西宮行く前に一回ちょっと話さないと。
「今夜はホテル戻るだけだろ、飯でも食うか」
良太が頭の中で何だかだと思い巡らせていると、工藤が言った。
「え……、今夜、ですか?」
あ、アスカさん………。
「今夜、アスカさんが、用があるから七時に戻って来いって言われてて」
すると工藤は苦笑いして、「そうか」とだけ言うと、良太に背を向けて監督の方に歩いて行ってしまった。
何だか、工藤も相当疲れてるっぽいし。
後ろ姿が黄昏てないか?
しっかし、何でこうなるんだよ!
湯豆腐の美味い店とか確かあったぞ。
せっかく、喧嘩腰にもならないで話せたっていうのに。
はあ、と良太は思わず大きくため息をついた。
「良太ちゃん、どうしたの? 工藤さんに叱られた?」
奈々が心配して良太の顔を覗き込んだ。
「いや、ちょっとね」
「奈々が工藤さんに言ってあげようか? 良太ちゃんすごい疲れてるから、あんまりきつくしないでって」
これは笑うしかないかもしれない。
何かもう、こうやって段々、遠のいていくんだ。
元々、それこそ何も土台のない関係なんだから、しょうがないよな。
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