月鏡35

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 良太が千雪から連絡を受け取ったのは、水波清太郎が出ていたCMの撮り直しの件で、クライアントのブライトンタイヤの広報課長や佐々木との打ち合わせが終わって戻ってきたちょうどその頃だった。
「加藤、いつでもOKらしいで。今からでもええ言うてるけど」
「よろしくおねがいします!」
 良太は電話に向かって頭を下げた。
 三十分ほど経った頃、千雪が加藤を伴ってオフィスにやってきた。
 加藤雄太は工藤が冤罪で捕まった時もクールに動いてくれたが、ひょろっとしたインドア派と思いきや、腕っぷしも強い。
 あの時、もじゃっとあった顎髭はきれいに剃られていて、今風の若者だった印象が、切れ者のITエンジニアに変わっていた。
「ああ、髭? 何や、今度のクライアントがきっちりしたとこやからて。あいつ、フリーのプログラマーやねん、一応」
 鈴木さんも帰っていたので、自由にどこでもどうぞと良太が言うと、加藤は早速探知機で隅から調べ始めた。
「一応って何ですか」
「まあ、その手の業界では名の知れたハッカーやったけど、今は所謂ホワイトハッカーってやつで、そっちの需要のが大きいらしいで。サイバー攻撃とか最近頻発しよるし」
「はあ、何か、カッコいいっすね」
 良太は羨望の眼差しで加藤を見た。
「元ヤンやけど、信用置けるやつや。真面目やし」
 なるほどそれで腕っぷしが強いというより喧嘩慣れしているわけだ、と良太は納得した。
「こないだのお友達、皆、そっち系?」
「せや、みんな。辻は高校ん時の同級生やけど、向こうで暴やんやって、大学でこっちきて、横浜で加藤らの仲間に逢うたらしい」 
 良太が聞くと、千雪は加藤の前でもお構いなしに説明した。
「高校卒業した頃、加藤らも暴ヤン卒業して、みんな仕事についたけど、たまに集まるんやて」
「はあ、俺、川崎なんですけど、あのあたりにも結構いたな。ってかそういうの卒業するもん?」
「ええ年してやってられへんてのが、あいつらの鉄則らしいで。あ、ほんで加藤がそのヘッドやったて」
「えっ? そう、なんですか。あ、コーヒーでも入れます?」
 良太は意外な話にまた地道に検査をしている加藤を振り返る。

 


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