月鏡70

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 予定より撮影が早く終わり、日比野監督や浅沼、それに三田園や橋本の面々はこれから飲みに繰り出す算段をしていた。
日比野は檜山や三木原、牧らアダチスタジオの面々やスタッフにも声をかけていたが、奈々は翌朝早く次の撮影現場に出向くことになっていたため、谷川と一緒にホテルに戻っていた。
 一端ホテルに戻ってからタクシーで行くことになったが、良太は日比野から聞いて、以前『からくれないに』の打ち上げで訪れた料亭『貴船屋』をあらかじめ確保し、檜山と一緒に京助の運転するレンジローバーで、先に店へと向かった。
 希望者を募ったところ約三十名ほどが『貴船屋』に行くことになり、京助と千雪も一行とは別に二人で店に入った。
「京助、飲めへんで」
 千雪が京助に言うのを聞いた良太は、「俺、運転しますよ?」と申し出たが、「用心棒は飲まなくていいんだよ」と京助に却下された。
「いんじゃない? 京助に任せておけば」
 檜山が気を使い過ぎだと良太に言う。
「はあ……でも結局何にも起こらなかったわけだし、申し訳ない気がして」
「まだ過去形にするには早いと思うよ」
「またまた、おどかさないでよ」
 堅苦しい挨拶をするとかは抜きにして各々が楽しんでいたが、良太は一応各テーブルを回り、皆をねぎらった。
 スタッフの間からもこの映画がかなりいい出来栄えになるという声が出ていて、良太は手ごたえを感じることができた。
「何かさ、檜山さん、今回神がかり的によかったよな」
 三田園や橋本からはそんな声も聞けて、最初の夜ホテルの宴会で、白石と告白大会をやらかした檜山自身のギャップに良太も苦笑した。
 初めて檜山と会った日に日比野が檜山のことを結構ざっくばらんだと言っていたが、何より表裏がなくて素直過ぎる気もしないでもない。
 撮影では、今回あらためて檜山の凄さのようなものも垣間見られたし、やはり彼の本領が発揮されるはずの舞台も良太は見てみたくなった。
 十時頃にはお開きとなり、呼んでおいたタクシーにみんなを乗せて帰すと、良太と檜山は千雪とともにレンジローバーに乗り込み、京助の運転でホテルに向かった。
 ホテルに着き、エレベーターホールへと歩こうとした良太を、フロントが呼んだ。
「広瀬様、FAXが届いております」
「FAX? ありがとうございます」
 良太はフロントへと歩み寄った。

 


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