月澄む空に10

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「スタジオでひとみの前にライトが落ちてきた」
 唐突に口にした工藤を、アイスを食べ終えた二人は振り返った。
「ひとみさんは?!」
 良太に問われて「ひとみは大丈夫だったが、照明の尾形が故意にケーブルが切られたと言っていた」と工藤が答えた。
「故意に切られた? 誰に!?」
「それがわかればこんな話はしない」
 良太が声を上げると工藤はフンと鼻で笑う。
「さり気に見張ります。特にひとみさんですね」
 工藤の意図を先回りして森村が言った。
「俺と良太は常に撮影に立ち会えないが、監督にはお前のことを話しておく」
「わかりました!」
「ただし、危険なことには関わるな。何かあったらすぐに知らせろ」
 張り切って頷いた森村に一抹の不安を抱いて工藤は窘めた。
「良太、お前も立ち会った時でいいが、特に今回初めて加わったスタッフ、俳優らを重点的に注意しろ。ひとみが狙われたのか、俺に対するものなのか、まだわからない」
「はい。また、反社会的組織とは関係あるかも知れませんし」
 良太は気になっていることを聞いた。
「全く関係がないとは言い切れない。ただ、今回あまりその手の連中の臭いはしない気がする」
 気色ばんだ目で良太は頷いた。
「とりあえず今回の関係者全員のリスト、携帯に送ります。ひとみさんの周辺もちょっと探ってみますから」
「頼む」
 せっかくいい感じで順調だと思っていた撮影なのに、そういったキナ臭い話がでるとは良太も思っていなかったし、悔しい気がした。
 一体、何者が、何の目的でそんなことをしたんだろう。
 良太は眉を顰めた。
「おい、お前は考え込むとろくなことがない。目の前の仕事をまず片付けろ」
「はあ」
 工藤に指摘された良太は不承不承納得せざるを得ない。
 考え込んで突っ走って周りにに迷惑をかけてしまうことがこれまで一度や二度ではなかったのは確かだからだ。
 これからはクールに行くからな。
 良太は心の中で宣言する。
 ひとみを狙ったのかも知れないが、もしかすると工藤か、或いは他の誰かかも知れない。
 心してかからないと。
 天野さんもかなり乗ってるみたいなのに、このことを知って戦意喪失とかにならないといいけど。
「とにかく、俳優陣もだが誰も被害に合わないように気を配ってくれ」
「わかりました」と良太と森村が同時に言った。
 店の前で解散し、森村が自分の部屋に向かうと、工藤と良太は車を停めている駐車場まで歩いた。
「何か、気になることとか、あるんですか?」
 良太に聞かれて工藤は一瞬戸惑った。
 誰も気づかないような工藤の顔色に最近ともすると良太は気づくことがある。
「杞憂かも知れないからな。少し、調べてから話す」
「はあ。わかりました」
 良太は納得がいかないという返事をした。
 引っ掛かっていたのは富田のことだった。
 工藤は顔を合わせたつもりはないが、もしかすると向こうも気づいていたかも知れない。
 富田があのスタジオにいたのは偶然だろうと思うのだが。

 


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