会社へと戻ると、二人は一緒に部屋へと上がる。
「今日はゆっくり休め」
「はい。明日朝ごはん、ありますからね」
「わかったわかった」
工藤はおざなりな返事をして自分の部屋のドアを開ける。
「おやすみなさい」
良太はそれでも、最近の工藤は少しあたりが柔らかくなったような気がして、自然と笑みを浮かべた。
翌日も世田谷のスタジオで撮影が続いた。
午後からは良太もスタジオに出向いた。
工藤は入れ違えに大阪へ向かったが、良太は春の香坂の件もあるので心配だった。
おそらく工藤を影でガードしている波多野が何か手を回しているだろうとは思うので、また『猫の手』軍団に依頼をした方がいいかと良太は考えていた。
今度はひとみさんを狙ったとか、そういうことだって考えられるわけだし。
良太はスタジオ内を回って、何か異常がないか目を凝らしていた。
「やだ、どうしたの? 良太ちゃん、顔が高広みたいになってるわよ」
休憩に入り、ひとみの高らかな声に良太は我に返って一つため息をついた。
「ちょ、やめてくださいよ、それ、冗談でも」
ハハハと笑うひとみに、良太も肩の力を抜いた。
「そういえば、大丈夫ですか? ライトが落ちてきたって」
良太は声を落として尋ねた。
「全然、平気よ、怪我したわけじゃないし」
「でも、何があるかわかりませんからね、油断しないでください。座長なんだし」
少し距離を縮めて、良太は小声で嘆願した。
「了解。これでも大ベテランの域に入ってるのよ? 昔はもっと変な事故とかあったし、ここんとこ平和過ぎて意識がだらけてたけど、注意は怠らないわ」
「変な事故?」
「大道具の壁が倒れてきたり、衣装が切られてたり、脅しの手紙があったり」
良太は怪訝な顔でひとみを見た。
「サスペンスドラマの中の出来事ですか?」
するとひとみはまたケラケラと笑う。
「ちょっとはひっかかってよ」
「もう、こっちは真剣なんですから」
ところが今度はひとみの方が良太の耳元で、「でも実はホントの話。だから気を付けてるわよ」と囁く。
「ウソ?!」
「だからほんとだって」
二人が漫才のような掛け合いをしているところへ、森村が差し入れのシュークリームを配りながらやってきた。
「小宮山さんからの差し入れです~」
「わ、美味しそう!」
森村が持っている大きな箱から、ひとみがシュークリームを一つ取った。
「やまちゃん、ごちそうさま!」
対局の隅にいる小宮山に、ひとみが大きな声で言うと、小宮山がひらひらと手を振った。
「小宮山さんと親しいんですか?」
良太はちらっと小宮山を見てからひとみに聞いた。
「親しいってほどじゃないけど、よくドラマで一緒になるからね。彼、名バイプレーヤーだから引っ張りだこなのよ」
小宮山は一見冴えないおじさんといった感じだが、今回は刑事役でスーツでビシッと決めている。
「ああ、でもね、ちょっと………」
ひとみが何か言いかけた時、休憩が終わった。
ちょっと、何だろう?
お陰で良太は気になってついつい小宮山を見つめてしまった。
今回良太は初めて会ったのだが、小宮山寿史は局の制作プロデューサーから推されてキャスティングされている。
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