「何の問題もなく撮影進んどるみたいやないか?」
「いやあそれが、こないだ、ひとみさんがあらためて言うから」
問われて良太は言った。
「何を?」
「その日の俳優陣、ちょっとした役に至るまで舞台出身の俳優さんだったんです。若い人まで。舞台の人がえらいってわけじゃないですけど、大抵ちょっと名の売れたタレントさんがいたりするじゃないですか」
「ああ、工藤さんが雷落としたくなるタイプ?」
それを聞くと良太は一人受けして笑った。
「なんやね? ツボった?」
「いや、ひとみさんと同じこと言うから。今日は工藤さんが怒鳴り倒したい人ってゼロだとかって」
千雪は笑い、「まあ、舞台の人って、演技やりたくてやってるからな。上手い下手は別として、姿勢が違うわな」と言い、続けて言った。
「ひとみさんの新しい顔と天野さんの重厚な演技で、こら、俺の小説らしからぬかっこええドラマになるかもな」
「ですね。多くの人に見てもらいたいドラマになってる気がします」
「フーン? 良太プロデューサーのお墨付きか。ほんで? 何を相談したいん?」
ドラマの話のついでのように、さらりと千雪が切り出した。
良太は千雪の顔を見た。
「かなり悩んどるみたいやけど、ドラマのことやないやろ?」
さすが名探偵、と持ち上げたくなるようなセリフで良太に詰め寄った。
「はあ」
良太の中にはまだ、沢村のことを千雪に話していいものかどうかという迷いがあった。
「あのお、千雪さん、前に留学してたって言ったじゃないですか」
とりあえず千雪に留学時のことを聞こうと良太は切り出した。
「ああ、良太がまだ青山プロに入る前な。せや良太が俺の講義取った次の年や」
「はあ」
良太はおざなりな返事をする。
ちょうど二年の時だ、法学関連の講義を名探偵がやるから取ってみるという輩がいて、良太も面白そうだと思って千雪の講義を取ったのだ。
しかし思いのほか難しく、しかも超真面目に判例などを細かく分析して云々という講義で、講師を面白がっている余裕などなかった。
「未だにあの講師と千雪さんがイコールにならないんですけど、超難しい講義で、しかもちゃんと聞いてないと落とされるっていうんで必死でしたよ。戸塚教授といい勝負で」
すると千雪は笑った。
「お前、俺にも青春とかあったんやで? あの年は俺の人生で最悪の年やった」
「ちょ、やめてくださいよ、終わったみたいな言い方」
「まあ、主に途中から、学生らは俺の八つ当たりのとばっちりを受けたんやな」
「何ですか、それ」
「ちゃんと俺の講義聞いとらんやつにはわかれへんテーマや問題、レポートや試験に出したったからな。ノートコピーしたかてわからんヤツ。相当いけずやったな」
ハハハと千雪は笑う。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
