月澄む空に103

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「例えば、二年間でのうても、佐々木さんにニューヨークで仕事があるとか?」
「や、そんなうまい具合に仕事が降ってきますかって」
 良太は笑う。
「あんなあ、待っとってもええことなんか降ってけえへんに決まっとるわ。この話、しばらく俺に預けてみ」
「え、はあ」
 何か策でもあるのだろうかと妙に自信ありげな千雪を良太は見つめた。
 その夜、何だか話し相手が欲しそうな千雪に付き合うべく、良太は千雪の部屋に泊まることにした。
 いつぞや押しかけた時も数日使わせてもらったゲストルームへの階段を上がっていく良太に、「風呂入ったらビールのも」と千雪が言った。
 ゲストルームについている風呂に湯を張ると、良太はゆっくり身体を沈めた。
「やっぱ、日本人なら風呂は必須だよな」
 まあ、自分はこんな贅沢な部屋とは縁がないけど、と良太は一応戒める。
 今借りている良太の部屋でも、父母がいるアパートを考えれば十分贅沢なのだ。
 親は親で毎日温泉に入れるなんて、こんな贅沢なことはないと言うのだが。
 確かに毎日温泉はなかなか恵まれた環境かも知れない。
 でも、やっぱ自分のうち、に住んでもらいたいよな。
 友人の保証人など引き受けなければ家も工場も取られずに済んだのに。
 今更言ってみても仕方がないことだが、こんな贅沢な部屋でなくても小さな我が家は家族にとっては城だった。
 幼い頃クレヨンで描いた壁や柱の絵も覚えている。
 沢村にはきっと田園調布の実家は居心地のいい家ではなかったから、佐々木の家の隣に自分の居心地のいい家を建てたいと思ったのだろう。
 居心地のいい家。
 ましてや愛する人と住めるものならと。
 なんか色々うまくいくといいな。
「カンパーイ!」
 缶ビールを掲げた千雪も風呂上りでジャージも新しい上下を着ている。
 うまい具合にゲストルームのチェストに、前回入れておいた下着やシャツがまだそのままになっていて、良太は新しいTシャツを着た。
「良太のセカンドハウスやな」
 そんなことを言う千雪に、滅相もない、と良太は首を振る。
 と、良太の携帯がワルキューレを奏でた。
「はい、お疲れ様です」
「森村に聞いたらお前は先に帰ったらしいが、何かあったのか?」
「いえ、ちょっと千雪さんと約束があっただけで」
 すると工藤は怪訝そうな声で「千雪と? 今どこにいる?」と聞いてくる。
「え、だから千雪さんちで……」
「また、お前は!」
 前回家出のように千雪の部屋に籠城したので、またかと工藤に思われたのかも知れない。
「や、ちょっとした打ち合わせで、流れでビール飲んじゃっただけで、明日の朝帰ります」
「まあいい。明日午後四時で、ネットプライムの打ち合わせ、お前の時間があれば行くぞ」
「あ、あります! 行きます」
「慌てることはないが、やるべきことはやっておけ」
「わかりました!」
 良太が電話を切ると、「何、明日デート? えろ嬉しそうに」と千雪が揶揄する。

 


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