「やめてくださいよ、仕事ですって」
慌てて取り繕った顔で良太はビールを飲み干した。
「鳴りわけとかしちゃってるくせに」
こちらもビールを飲み干した千雪はニヤッと笑う。
「え、これはですね、仕事上で、その……」
途端顔を赤くして良太はしどろもどろの言い訳をする。
「にしても、おもろいなあ、俺らの縁も」
くすりと笑って千雪の話が変わる。
「え?」
良太は振り返る。
「良太と初めて会うたん、ちょうど俺ら留学から戻ってきた頃やったなて。良太が怪我して会社の前に倒れよって、あれは焦ったわ」
「ああ、あの時はほんとにお世話かけました。あの頃、アメリカから戻ってきたんですか?」
「そや。今思うと、二年なんてすぐやったわ」
「はあ、そうですか?」
「過ぎてしまえばな」
過ぎてしまえば、か。
佐々木さん、二年くらい沢村のこと待ってくれたらいいのに。
「思うに」
千雪がポツリと言った。
「佐々木さん、二年くらいで沢村のこと忘れることなんかでけんて思うけどな」
良太は千雪を見た。
「要は沢村次第やない?」
「沢村も佐々木さんに限っては二年くらいで諦めるとは思いませんけどね」
二人でぽつりぽつりと話している頃、さっき良太に電話をしてきた工藤はロケ現場でまた若い俳優を怒鳴りつけていた。
「とっとと戻れ! 走る位置をぼんくら頭に叩き込んどけって言ったはずだ!」
若い俳優は楠木という、大手事務所所属の一人だ。
「あいつ、楠木、ほんとに学習能力ないやつ!」
何度目かのリテイクで怒り心頭の君塚も大きな声を上げた。
「でも、怒鳴りながらも工藤さん、あいつ使ってるから、それなりにまだ見放してはいないんだと思うけど」
監督の安田がふうとため息を吐く。
「勝手に暴走するには千年早いわよ」
安田の言うことはわかるが、君塚は楠木をまたりつけた。
先ほどまで覆っていた雲が流れ、空には今、月が煌々と顔を見せている。
本谷と知り合った頃からだろうか、工藤も出来の悪い俳優であれ少しばかり雷を落とすのを抑えるようになっていた。
あの頃は猪野の件があってがむしゃらに仕事を入れていたため、頼まれた仕事でクソ下手な演技でも降ろすに降ろせず、怒鳴りつけたアイドル俳優は、意外にも打たれ強く、それから徐々に力をつけていった。
以来、よほどのことがない限り、昔のようにすぐに首を切るような真似はしなくなった。
この楠木も、どうやら最初から怒鳴りつけてくる工藤に対する反発もあって、前よりまずくなっているのかも知れないと、一応は最後通牒を突きつけるまでには至っていない。
「いい加減目を覚まさないと、工藤さんの堪忍袋の緒が切れる前に」
とりあえず君塚が怒鳴りつけたので、安田は冷静に楠木を諭した。
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