月澄む空に107

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「出来の悪い、下っ端俳優、ですか?」
 それこそ不思議な言葉を工藤から聞いた気がして、良太は聞き返した。
 しかもその俳優のことを詰るでもなくほくそ笑んでいる。
 使い物にならないと思ったら即クビを切るはずの、鬼の工藤が、一体どうしたんだろうとさえ思う。
 俺のことは商品にもならないと一刀両断したくせに、とでも言いたくなる。
 それからしばらく『検事六条渉』のドラマの話をしているうちに、店の戸がガラリと開いた。
「おう、来たぞ」
 紺野が笑顔で入って来て、「久しぶりだね、良太ちゃん」と言った。
「お疲れ様です」
 すぐに君塚と、出来の悪い下っ端俳優、の楠木がぶすっ面で現れた。
 女将に案内されて、奥の小さな座敷に五人は通された。
 三人に付き合って、工藤と良太もいくつかオーダーすると、三人は生ビールで、二人はぐい飲みで形ばかりの乾杯をした。
「楠木くん、しゃっちょこばってなくてもいいんだよ」
 紺野はとりなすように言ったが、楠木としては散々自分を怒鳴りつけたプロデューサーと一緒に飲むなど、居心地が悪いばかりだったのだろう、ちょっと頭を下げただけだった。
「あのさ、楠木、言っとくけど、工藤さんはあんたのためを思って怒鳴ってんだからね」
 ジョッキを半分程一気に空けた君塚は、まだ渋面を崩さない楠木にあまり慰めにもならない言葉で言った。
「そう言われても、怒鳴り散らされたらパワハラとか思っちゃいますよね」
 割と酒が入ると滑らかになる良太の口はサラリとそんなセリフを吐いた。
 すると楠木が顔を上げて良太を見た。
 この程度のちょっとイケメンの俳優なら、それこそ腐るほどいるな、と良太も思う。
 ここから一歩抜け出せるかどうかが今後の未来を予測するというわけである。
「でも、怒鳴られていちいち腹立ててたら全然前に進みませんからね。一番いいのは右の耳から左の耳へ聞き流すってことです」
 一人頷いて、良太はうん、と断言する。
「なるほどな、お前の頭には糠味噌が詰まってるだけだから風通しがいいわけだ?」
 思い切り工藤に皮肉られたものの、「やだな、ちゃんと工藤さんの命はきっちりこなしてるじゃないですか。糠味噌がどんだけ美味い漬物作ると思ってんですか」などと言いつつ、良太はぐい飲みを空けた。
「お、うまいこと言うね、さすが、良太ちゃん。俺も糠味噌によく漬かった漬物は大好物でね」
 紺野が笑いながら良太に徳利を差し出した。
「あ、すみません」
 慌ててぐい飲みで良太は紺野の酒を押し頂く。
 紺野のジョッキにはまだビールが残っていたが、「紺野さん、何、飲まれます?」と良太は聞いた。
「そうだな、俺も熱燗にしようかな」
 良太が備え付けてあるカウンターへの携帯を取ろうとしたちょうどその時、女将が料理を持って現れた。

 


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