月澄む空に108

back  next  top  Novels


 鯖の生姜焼きやきのこの和風ハンバーグ、松茸の土瓶蒸し、海老や帆立の串焼きなどがテーブルに並び、「美味しそう!」と君塚が声を上げた。
「ほら、ぼっとしてないで、楠木も食べなさいよ」
 工藤と良太の向かいで真ん中に陣取っている君塚は、てきぱきとハンバーグを二つに割って取り皿にとり、串焼きも二本載せると、ビールを半分ほど空けてもまだ固くなっている楠木の前に置いて促した。
 また煮物碗や茄子の鴫焼、蟹のグラタンなど次の料理が持ってこられ、熱燗がくると紺野と工藤が飲み始め、一通り今のドラマの話がしばらく続いた。
「楠木もさあ、もちょっと色気出してちょっとでもセリフもらいなよ。せっかくいいプロデューサーがこんなに並んでるんだからさあ」
 君塚がそうやってさっきから楠木に発破をかけているのを見て、良太はただ下手くそな下っ端というだけでなく、目を掛けたい何かしらがあるのだろうと、楠木を見た。
「そうだ、広瀬さん!」
 楠木を気にかけていたはずの君塚に急に面と向かって名前を呼ばれ、良太は「はい」と顔を上げた。
「まさか、広瀬さんが、あの謎の『和泉秀也』だったなんて、先日お会いした時には気づかなかったんですけど」
 いきなりまた黒歴史を持ち出され、良太は酒が喉に詰まりそうになって一つ咳をする。
「私、あのドラマ、ずっと見てたんですよ。マスコミも目をつけてたのに、急にいなくなっちゃって、ほら、楠木、あんたと同じ楠先生、当時目の色変えて探してたんですよ」
 うっわあ、またかよ! こんなところでもう勘弁してくれ、と良太は心の中で叫ぶ。
「あの、その話はもう。もともと俺はうちの社員だったんで、たまったまギリギリの代打で、へたっぴもいいとこのお恥ずかしい限りなんで」
 良太はこの話を工藤が嫌がるのをわかっているので、ともかくやめてほしいとばかりに訴えた。
「広瀬さん、楠木と同世代なんですか? この人、目が出なくて二十八なんですけど」
「は、え、俺も二十八で、同世代ですね」
 君塚にまた問われて、良太はハハハと空笑いする。
 すると楠木が睨むように良太を見た。
 おいおい、なんか、前にも似たようなシーンなかったか?
 天野さんだよ、思いっきり睨まれたよな。
「ほら、広瀬さんは楠先生に目を掛けられるほどだった上に、プロデューサーとしても活躍してるのよ。楠木、今年が踏ん張りどころってことだよ」
 君塚は楠木に念を押すように言った。
「まあ、役者なんざ、歳だけで判断するもんじゃないが」
 ところがそんな君塚の言葉に反論するかのように言う隣の工藤を、良太は思わず振り返った。

 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
いつもありがとうございます