何だよ、出来の悪い下っ端俳優、の見方はするんだな。
僻みは認めるとしても、俺が出来の悪いちょい役だった時は、工藤、頭ごなしに否定したのにさ。
そこのところは折に触れ思い出してしまう。
最近の仕事では工藤も良太を多少は信頼してくれているとは思っているのだが、あの時のことを思い出すと、工藤に根本的に認めてもらえないという焦りのようなものがどうしても消えてくれない。
心の中でグダグダとそんなことを考えていた良太は、みんなの話が頭にはいっていなかった。
「やっぱり私、青山プロに転職しまーす!」
いきなり、ハイ、と挙手したと思うと、君塚が宣言した。
「おいおい、お前がいくら宣言したところで、工藤は簡単に採用なんかするもんか」
君塚はビールの次は焼酎をカパカパ飲んでいたから酔いも手伝ってのことだろうが、紺野が苦笑しながら君塚を窘めた。
「うちは年中人手不足だからな。有能な人材なら歓迎するぞ」
森村はたまたま仕事上で知り合い、さらに波多野の息子ということもあり、社員になったが、工藤の出自のせいもあって、良太以外あの会社には新入社員が入ったことはない。
だが有能な人材が自ら転職を希望してくれるなら、それに越したことはないだろう。
冷静に考えればその通りなのだ。
ただ、どうせ万年人手不足だから、自分しか工藤を支えられないのだと、良太にはそんな自負もあったのが、今、簡単に吹っ飛んだ気がした。
工藤とは恋人関係でも何でもない、その上、仕事上でもMBCの有能なプロデューサーが会社に入るのなら、自分の存在理由はほとんどなくなってしまう。
良太の中でまた先頃から常々考えているジレンマが頭をもたげてきた。
「はい! ついでにあたし、工藤さんの恋人に、立候補しまーす!」
君塚の言葉がそんな良太に突き刺さる。
この人がほんとに会社に来たら、俺の出る幕は全くなくなるな。
いよいよかな。
借金がある限り会社を辞めることはできないが、そうなったら本気で部屋探ししないと。
何だか一気に酔いが冷め、頭の中もクールダウンした。
もう一人良太の向かいで手持無沙汰のように厚揚げをつついている楠木に良太は徳利を差し出した。
「あ、どうも」
楠木は不愛想な顔で言った。
「楠木さん、ずっと役者を?」
何だか君塚や工藤らから離れたい気分で、良太は聞いてみた。
「学生の時に、芝居みて、なんかそれからずっと、つかず離れずみたいな感じで、まあ、俺に才能なんてないってのはわかってるんすけどね」
楠木は苦笑した。
「親には一応大学だけは卒業しろって、そしたら何をやるにも勝手にしろって言われて。まあ、本業は飲み屋の裏方みたいなもんっすけどね。ドラマとかの仕事なんて、たまーに声がかかるくらいだし」
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