月澄む空に13

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 五時少し前に、良太はコインパーキングに車を停めると、大通りから一本入ったところにあるカフェのドアを引いた。
 前回藤堂に相談ごとでこの店に来たのはいつだったか。
「久しぶり、良太ちゃん」
 奥のテーブルで藤堂が手を挙げた。
「はあ、二週間ぶりくらいですか?」
 良太は苦笑しながら藤堂の向かいに座った。
 店内はテーブル席がいくつかうまっているが、密かに流れるジャズが聞こえるくらい静かだ。
「今日はザッハトルテだから、奢っちゃおう。二つお願いします」
 良太が不愛想なマスターにコーヒーを注文すると、藤堂が言った。
 やがて香りのよい美味しいコーヒーとともにザッハトルテが運ばれると、しばし雑念を忘れて堪能した。
「それで? 何の情報が欲しいのかな?」
 ケーキを食べ終えて一息ついたところで、藤堂が切り出した。
「割と引く手数多のバイプレーヤーさんで、小宮山寿史さんてご存じですか? 年齢はアラフィフくらいかな」
 良太は少し声を落として尋ねた。
「小宮山さんか、もちろん知ってるよ。前の会社の時に、CMでご一緒したな。あの頃は小宮山さんもすごく穏やかで、暖かい家族の雰囲気がとてもよかった」
「あの頃はってことは………」
 良太は最後まで口にせずに言葉を濁した。
「そうだねえ、時が経つと、人もそれなりに変わるからね。最近は暖かい家族設定では、ちょっと小宮山さんは呼べないな」
「今回、『検事六条渉』で、小宮山さん刑事役なんですけど」
「その設定なら問題ないんじゃない?」
「いや、その……」
 どう説明しようかと良太は迷った。
 ライトが落ちてきたのが小宮山と関係あるとは言えないのだ。
「ま、ずばっと言ってくれた方が、必要な情報が得られると思うよ?」
「そう、ですね。ただ、小宮山さんが関係あるかないかは全くわからないんですが」
 そう前置きすると、良太は、スタジオ内を歩いていたひとみが下手をすると落ちてきたライトで怪我をするところだったこと、事故だと思ったがケーブルが明らかに刃物で切られた可能性があること、老弁護士シリーズと同じ撮影クルーやチームでやっているが、これまでこんな事故はなかったので、今回から新たに加わった者に注意していることなどをかいつまんで話した。
「ライトか。あんなものが落ちてきたら、下手をすると殺傷沙汰にもなりかねないよ。それは由々しき問題だね。誰かが故意にライトのケーブルを切ったとしか考えられないね」
 藤堂は神妙な顔で前のめりに良太の顔を覗き込んだ。
「はあ、やっぱりそうですよね。ただ、ひとみさんを狙ったのか、誰かれ構わずなのかも分かりませんし、内々にモリーと警戒しているんですけど」

 


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