「ああ、やっぱ情報収集、人から何か聞き出すプロですよね。ほら、藤堂さんなんかあらゆる情報、頭に入ってるって人だから、今までもいろいろ教えてもらってますけど、谷川さんの場合、業界のことなら津々浦々ってくらい細かいこと知ってて、俺も時々、助けてもらってます」
「ほう?」
工藤はぐい飲みに酒を注ぎながら、あらためて谷川という男の顔を思い浮かべた。
奈々のマネージャーというよりボディガード的な要素を重要視して探していた時、人づてで現れたのが谷川だった。
年は工藤より少し上で、神奈川県警の警部補だったという谷川の経歴に、最初工藤は胡散臭さを覚えた。
何を好き好んで元であれ警察官だった男が、組織が目の敵のようにしている中山組の甥の会社に来ようとしているのかと疑惑がわかないはずもなかった。
だが、小田に調査を依頼したところ、谷川は正義感の塊のような男で、真面目な敏腕刑事だったという。
谷川が警察を辞めたのが妹の相手がヤクザだったという理由だが、お陰で妻子とは離婚、家も明け渡して、慰謝料やまだ大学生だった娘に養育費を支払う必要もあり、とにかく金が必要だったようだ。
生真面目な元刑事ということで、工藤は採用を決めたが、明らかに最初から工藤に対して敵対心を持っていたことはわかっていた。
良太ではないが、そんな谷川が業界に馴染んだり、奈々のためにであれ聞き込みをして情報を仕入れたりといった仕事をするようになるとは、思いもよらなかったし、期待もしていなかった。
やはりそれも良太の功績というべきか。
工藤が鼻で笑うのを見て、「なんですか?」と良太が訝しんだ。
「谷川も、良太ちゃんのお陰でほかの社員とも仲良しこよしになったってことだろう?」
「またそういう、ひねくれたことを言うし。谷川さん、真面目な人だし、裏表ないひとですから」
良太はむきになって言った。
「秋山さんとも情報交換とかして、企画を練ったりもしてるみたいですよ」
それも意外も意外な話だ、と工藤は思った。
もともと商社でプロジェクトを組んだりしていた秋山にはアスカの仕事をほぼ任せている。
何かのっぴきならない状況にでもならない限り、お前の裁量でやれといってある。
たまに遠い田舎の小さな仕事などを入れて、往復に無駄に時間がかかったなどということもあったようだが、アスカと二人でなかなかいい仕事をしてきているのは確かだ。
バックアップするから独立してもいいとは言ってあるが、秋山もアスカも青山プロダクションという会社にいる今のこの状態がいいのだという。
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