月澄む空に169

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 さっきテレビをつけたら関東での初雪の話題を取り上げていた。
 通り過ぎる季節に目をやることすら忘れているような毎日だ。
 下手をすると過去の遺物になりかねないテレビだが、焦りまくって見当はずれの番組ばかり作っている局にもクソ真面目に番組を作っている連中がまだまだいる。
 良太が制作にも意欲を見せているのでニューヨークの研修も受けたのだが、俺のように季節の移り変わりすら気づかないような日々を送ってもらいたいわけではない。
 工藤は眠っている良太の頭をそっと撫でる。
 良太のこれからに少しでもいい後押しになればいいのだが。
 カーテンの隙間からいつのまにか白々としてきた空に気づいて工藤は目を閉じた。

 
 

 外は横殴りの北風が吹きすさび、いよいよ本格的な冬の到来を告げていた。
「あら、直ちゃん、いらっしゃい」
 ドアが開いたのは十一時を過ぎた頃だった。
「こんにちは~!」
 良太が顔を上げるとシュークリームが評判のパティスリーの袋を掲げて直子が入ってきた。
「何だか、いつ雪が降り出してもおかしくないってお天気」
 書類お持ちしましたあ、と大きめのトートバッグから封筒を取り出すと、直子は良太に手渡した。
「確かにお預かりしました」
 東洋商事の仕事での佐々木のサイン入り契約書等々だ。
「寒かったでしょう。お座りになって。今、お茶お持ちしますね。良太ちゃんも一休みしたら?」
 鈴木さんに促されて、良太も直子とともに窓際の大テーブルの方へ移動した。
「モリーは?」
「ちょっとお遣い。すぐ戻るけど」
「モリーって見かけによらずフットワーク軽くて働き者よね~」
 どこぞの噂好きのおばさんのような口調で直子が言った。
「ほんと、気が利くしさ、俺なんかほんっと助かってる。英語もお陰で多少はマシになってきたし」
「いいよねえ、モリーと会話してたら必然的にしゃべれるよね~。うちもね、知り合いのアメリカ人に来てもらって、直と佐々木ちゃん、英会話頑張ってるんだよお」
「へえ、アメリカ人?」
「うん。ボブはK大の大学院行ってて、バイトで英会話教えてるの。楽しい人で、いろいろニューヨークの面白い話とかもしてくれるんだよ」
 直子はいつもより手振りも大きく話す。
「まあ、直ちゃんも英語できるようになったの?」
 さっそくシュークリームと紅茶を入れて来てくれた鈴木さんが聞いた。
「うん、ちょっとだけね」
 肩を竦めて直子は笑った。

 


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