月澄む空に17

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「お疲れ様でした」
 鈴木さんを見送って振り返った森村が、「やっぱり何かこの会社に対して妨害工作?」と言った。
「少なくともうちの名刺を持っている業界関係者ということですね」
「撮影中はとにかく注意を怠るな」
 良太の言葉に、それまでほとんど口を開かなかった工藤が厳しい顔で言った。
「Copy!」
 森村が頷いた。
「わかりました。一応、業者さんたちに連絡しておきます。刑事が行くかもって」
 良太は自分のデスクに戻って電話を取った。
「俺も連絡入れます。リストください」
 森村にリストを分けて良太は電話をかけ始めた。
 すると工藤は「ちょっと出かけてくる」とオフィスを出て行った。
 その背中を見つめながら、やっぱり加藤さんに相談してみたほうがいいかもな、と良太は思う。
 加藤は『猫の手』の代表で、要所要所に猫の手軍団を送り込み、これまでもいろんな面で助けてくれている。
 檜山のボディガード兼運転手も引き続きやってくれているが、身辺調査などの業務に必要な探偵業届出証明書も抜かりなく取得している。
 良太は電話の合間に依頼したい調査があることを加藤にラインした。
 一方、オフィスを出た工藤も会社の顧問弁護士である小田に会うべく、タクシーを拾った。
 地下鉄半蔵門駅の近くにある古いビルに、小田弁護士事務所はあった。
 小田とは検事の荒木とともに大学四年でそろって司法試験を突破した三羽烏として、学部内ではしばし注目を浴びたりした腐れ縁で、頭は切れるが人のいい小田は、工藤の指定暴力団中山組組長を伯父に持つという特異な出自や両親を知らず曾祖父母に育てられたという生い立ちも知った上で、ずっと工藤が持ち込む難題を受けてくれる希少な人物だ。
 お前のお蔭で俺の頭は後退したというのが口癖だが、工藤の会社の何人かは、様々な理由で小田事務所を頼った依頼人で、青山プロダクションの万年人手不足を助けている。
「妨害工作? きさま、また何をやらかしたんだ?」
 既に営業時間は過ぎているが、勝手知ったるで現れた工藤に、小田は顔を顰めた。
「俺は何もやらかしちゃいない」
「フン、どうせ、昔の所業に恨みを買ったのが原因じゃないのか」
「知るか。そこを調べてくれと言ってるんだ」
 言い争いのようなやり取りもなんのそので、「コーヒー、ここ置きますね」と立ったままの工藤とデスクの小田に声をかけたのは、司法書士の安井小百合だ。
「ああ、結婚おめでとう」
 工藤は安井の顔を見て思い出して言った。
「ありがとうございます。でも、まだ婚約ですから。結婚はうちの親が式場だの何だのうるさくて」
 祖母がアメリカ人という安井は赤い髪に灰色がかったブルーの目をしている。
「そうなのか」
「安井の家は古いから親が何だかだ言うんだ。相手が遠野だから、パラリーガルなんかと結婚は許さんとかって」
 小田が言った。
「私も譲も婚姻とか面倒だし、もう事実婚でいいかとか言ってたんですけど、小田先生が譲に、もう一度清水の舞台から飛び降りるつもりで試験を受けてみろって」

 


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