月澄む空に18

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「いやあ、それで合格するとは俺も思ってなかったが、何とか司法修習を終われば、晴れてパラリーガル卒業だ」
 小田はそう言って笑う。
「やだ、先生。譲を焚きつけといてそれはないでしょう」
 遠野の司法試験合格と二人の婚約はこの事務所にも久々明るい話題だ。
 遠野譲は大学在学中に、質の悪い連中に絡まれている女性を助けた時に相手を叩きのめしたことで逮捕された経験を持つ。
 相手は重症を負ったが、遠野は女性の証言で執行猶予刑となり、もともと弁護士を目指していて法学部を卒業したが、家族には見放され、何度か司法試験を受けたものの不合格が続き、その頃から弁護をしてくれた小田の事務所でパラリーガルとして仕事を続けていた。
 安井は高校生の頃関西の暴走族に入って暴れていたが、少年院を出てから東京の祖母の家に引き取られ、祖母の知り合いの小田の事務所で働くうち、司法書士となって今に至る。
 安井と遠野は誰かと知り合う機会のないこの境遇からか、随分前から付き合っており、経済的なことも考えて今は同居している。
 小田の事務所は安井と遠野の他に近年事務の川瀬夏代の四人で、シングルマザーの川瀬はとうに帰っていた。
「お前のとこも森村くん、正社員だって? よかったじゃないか」
 とってつけたように小田が言った。
「フン、森村一人社員になったところで、俺も良太も仕事量が減るわけじゃない」
「だから仕事をセーブしろと言ってるだろう」
「こっちがセーブしても仕事を押しつけられるんだから仕方ないだろう」
 またぞろ二人が言い争いのようになったところで、「じゃ、私、帰ります」と安井が言った。
「ああ、お疲れ様」
 小田は安井に言うと、「とにかく座れ」と工藤に促した。
 工藤はスタジオでのライトの落下事故のことから、昨夜、青山プロダクションのプロデューサーを騙った男が、ロケハンと称してスナックで飲み食いし、挙句はその店の女の子が襲われそうになったことなどをかいつまんで話した。
「明らかに妨害工作だな。心当たりは?」
「あり過ぎてわからん」
「全く。とりあえずそのスナックから調べてみるが」
 小田は不承不承という顔で言った。
「今回の関係者リストを携帯に送った」
「わかった。そっちも調べてみよう」
「ただ……」
「何だ?」
「偶然だろうとは思うが」
「話せ」
 工藤は世田谷のスタジオで、たまたま隣の部屋から出てきた男が元MBCのプロデューサーで、工藤を目の敵にしていた男だと話した。
「十分怪しいじゃないか。偶然なんてあるもんか」
 小田は決めつけるように言い、「名前は?」と聞いた。
「富田将次。俺がMBCを辞めてしばらくして、富田も辞めて芸能事務所を開いた。トミタエンタープライズ」
 工藤の話に小田は「わかった。そいつの金回りとか会社の状況とか調べておこう」と頷いた。
 工藤が会社に取って返すと、オフィスではまだ良太と森村が顔を突き合わせていた。

 


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