「あ、お帰りなさい」
「お前らもう今日はその辺にしておけ。警察が絡んでるんだ、小田にも話してきたから、お前らは仕事の方に集中しろ」
顔を上げた二人に、工藤は言った。
「あ、はい。一応、関係各所に、連絡はしておきました」
良太は言ったが、ちょっと森村と顔を見合わせた。
実は既に加藤に調査を依頼したところだった。
小田とは違う角度から調べてくれるだろうし、工藤には何もない限り言わないでおこうと良太は森村と話していた。
「じゃ、お先に失礼します」
森村が帰ると、工藤は自分のデスクに戻り、電話をかけ始めた。
良太がパソコンの電源を落とし、ライトを消すと、「おい、電話、もう一件かけたら、飯、行くぞ」と電話の途中で工藤が言った。
「はい。じゃ、ちょっと猫、見てきます」
良太はたったかエレベーターに向かった。
『夕顔』の暖簾をくぐると、珍しく工藤が、いつものカウンターではなく「奥、空いてるか?」と女将に聞いた。
「ええ、九時までならどうぞ」
にっこり笑って女将は頷いた。
最近、板前修業に出ていた息子が手伝うようになり、何かの時にしか使っていなかった奥の座敷を使えるようにした。
「適当に見繕って頼む」
女将に言い置いて奥へと向かう工藤に、良太はちょっと小首を傾げつつ、そのあとに従う。
「うわ、これウマ!」
お通しのたたきキュウリの梅肉和えを口にした途端、良太はつい声をあげる。
良太は生ビール、工藤は冷酒で、もつ煮込みをはじめ、刺盛り、白菜とツナのサラダ、焼きホタテ、鰆の山椒焼きなどをちょっと不愛想な女将の息子、博也がテーブルに並べて行った。
座敷と言っても、せいぜい六人も座ればいっぱいになりそうな部屋だが、襖がある分、落ち着いて話ができる。
「いいか、何かあってもお前は勝手に動くな」
しばし食べて飲むのに集中していた良太に、工藤が徐に切り出した。
「は?」
「お前は動くなと言ってる。何かっていうとお前が動いて、ろくなことにならない。お前は動かずに、森村を動かせ。加藤を使うんでもいいがとにかく、お前は動くな。わかったか?」
妨害工作が色濃くなってきた諸事情を踏まえ、香坂の時のように、また良太が動いて病院送りになったりすることを工藤は危惧していた。
ようやく工藤の言わんとしていることがわかって、良太は途端仏頂面になる。
「わかりました」
そりゃ、俺が勝手に動いて、病院の世話になったことが一度や二度じゃないことはわかってるけどさ。
加藤に依頼したことも工藤にはお見通しのようだ。
どうせ、俺は森村みたいに腕力もないし、足手まといになるばっかだろうさ。
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