口には出さなくても拗ねているのは一目瞭然の顔で、良太は鰆をつつく。
「お前は司令塔でいればいいんだ。第一、仕事が山積みなんだ。どこぞをうろついて怪我でもしたら元も子もない」
何だよ、そんなことを言うために、わざわざ座敷にしたのかよ。
良太は心の中でブツブツ文句を言う。
「聞いてるのか」
「ちゃんと聞いてますよ」
つんけんと言い返す良太を見て、工藤は小さく息を吐いた。
ったく、病院送りになった良太をやきもきして心配しているこっちの身にもなってみろ。
「適材適所ってくらいお前もわかるだろうが。とにかくお前は自分の仕事をすればいいんだ。もし万が一、どこかのバカがライトを落としたのを見ても、お前は動くな! 森村を動かせってことだ」
工藤は言葉をつくして言って聞かせようとする。
俺が怒鳴ったところでこいつには端っから馬耳東風だ。
鬼の工藤の異名も良太には聞かないのは何年かの付き合いでよくわかっている。
案の定、良太は拗ねたように工藤を上目遣いに見やる。
「モリーがいなかったら?」
「そいつを怒鳴りつけるだけでいい! いいか、お前はスタッフ俳優ら全責任を負ってるんだ。お前が鉄砲玉みたく飛び出してどうする」
そんな風に言われると、確かに香坂が拉致されるのを見た時、撮影現場から一人勝手に飛び出してしまったことは、良太も多少反省しないでもなかった。
けどさ、一秒を争うって時に、暢気にモリーとか呼び出してられるかって。
良太としてはそう言い返したいところだが、ここはとりあえず、はいはいと言っておくしかないだろう。
頷いた良太を見て、このやろう、形だけうんと言えばいいとか思ってるな、と工藤は工藤で怪しんだ。
『夕顔』を出ると、工藤はいつものように前田の店へと足を向けた。
何のかの言っても、工藤としてはこうやって良太と肩を並べて歩いていられればよかった。
「すっごくいい香りですね、これ」
前田に勧められて、近日入ったというラマニーを、工藤に倣って顔を真っ赤にして飲んでいる良太を見ると、苦笑もこぼれるというものだ。
工藤と一緒に飲んで、ほろ酔い加減になれば、良太もいい気分になり、エレベーターの中で工藤に寄りかかってくれば、そのままベッドへ直行するだけだ。
「…は……あん……」
艶めいた声を上げながら容易く追い上げられて良太は工藤に縋りつく。
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