月澄む空に21

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 ソファに引っ掛けた良太の上着のポケットで、携帯がけたたましく鳴り響くまで、良太は工藤の胸にすっぽり収まるように眠り込んでいたので、週刊でガバっと身体を起こした時、肘が工藤の顎にあたった。
「いってぇな…」
「え、ゴメ………」
「だから、あの騒音を変えとけって言ったろうが」
 ちょっとうろたえた良太に、顎をさすりながら工藤が文句を言った。
「ンなこと言ったって、あれじゃないと起きられないし」
 良太は言い訳してバスルームに飛び込んだ。
「うう……俺って、工藤と一緒に飲むとグダグダになるんだ……」
 酔ってはいたが、一杯機嫌で工藤に寄りかかったのを忘れるほどではない。
 今更ながらにぶつくさ言いながらざっとシャワーを浴びてバスローブを羽織ると、良太は脱ぎ散らしたものをまとめて抱えて慌てて自分の部屋へのドアを開けた。
 古巣のMBCで役職にもある先輩プロデューサー紺野とともに近年制作に関わっている硬派な警察ドラマの撮影で、今日ニューヨークに発つ工藤を羽田に送ると、良太はそのままスタジオへと向かった。
 しとしとと雨が降り続くその日は、板橋にあるスタジオAでは、警察署内で取り調べ室の撮影が行われた。
 検事や刑事が出てくる内容なので、警察署や裁判所などの撮影が当然多くなる。
 法廷シーンなどは横浜にある古い建物を裁判所や法廷に見立てて撮影は行われている。
 スタジオAはこのドラマでちょくちょく利用しているが、築十年、休憩室などがきれいで俳優陣には評判がいい。
 撮影は順調に行われたが、騒ぎが起こったのは夕方のことだった。
 三人ほどのスタッフや俳優がお腹が変だと言ってトイレに駆け込んだのだ。
「まさか、さっきのおやつとか?」
 良太は休憩時間にどら焼きとお茶やコーヒーを配ったのだが、よもやそれが当たったのかと青ざめた。
 だが、この三人以外に症状が出た者は他にいなかった。
 すぐに救急車を呼び、三人は近くの救急病院に運ばれた。
 良太は後を森村に任せて救急車について病院に行った。
「え、下剤、ですか?」
 三人は、急激な下痢の症状だけで、熱もなく、ウイルスや菌類も発見されず、血液検査の結果、医師の見立てでは、下剤か何かを飲んだのではないかという。
 だが、三人とも下剤などは飲んでいないと答えている。
 良太は嫌な予感がした。
「あ、ちょうど電話しようと思ってたんです」
 三人は直接撮影には関係がなく、スタジオでは撮影が続けられていたが、良太が森村に電話をすると、そんな答えが返ってきた。
「今、スタジオの外ですが、下剤の箱、ごみ箱から発見しました」
「え? ほんとか?」
「Yep! 念のため俺の指紋つけないように保管してます」
 この事実に、良太は益々事態が由々しくなってきたと背筋に冷ややかなものを感じた。
 病院でも誤って下剤を飲んだのではないかと医師が言っていたことを森村に告げると、「これはちょっと対策を練る必要がありそうですね」という。


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