「にしたって、おもろそうな事件が起っとったのに、俺に知らせんと、薄情やな良太も」
「それ、薄情って言いますか? それにおもろそうなとか言わないでくださいよ」
「珍妙な事件?」
はあ、と良太は苦笑いする。
「にしたってや、名探偵の看板出しとる俺が、テレビやネットのニュースで見てようやっと知るとかないやろ」
「看板って……」
「明日撮影あるんか? あるんやったら見学がてら事件の詳細聞きにいくわ」
「わかりました。じゃあ、ご都合のいい時間にお迎えに上がります」
千雪が自分から撮影に顔を出そうというのは滅多にないことである。
「千雪センセが来るの?」
森村と明日千雪を迎えに行く話をしていると、聞きつけたひとみが聞いてきた。
「ええ、たまには顔を出してくださいと言ってたんですけど、明日、来てくれるって」
「よかったわ。一度、千雪センセの意見も聞きたかったのよね」
「まあ、千雪さんは、自分の手を離れたら別物って考えてますけどね」
普通は、自分の作品を映像化するのに、意図するところが違えば作者なら当然文句を言うだろうところを、最初から千雪は、原作は原作、ドラマや映画になったらそれは別物という考え方なので、キャスティングや撮影に口を出すことはしない。
「でも、全く違った解釈で撮られたらいくら千雪センセでも面白くないんじゃない?」
ひとみが疑問を投げかける。
「さあ、ただこのプロジェクトも、もう一つの弁護士シリーズプロジェクトも原作を読み込んでなるべく原作に沿って制作してますからね」
「あ、それ、俺も思いました。原作に忠実だなって」
天野までが会話に割り込んできた。
「正直、俺、あんまり推理小説とか読まなかったんですが、読み始めると面白くてはまっちゃいましたよ」
「俺、漢字がたくさん並ぶと、まだ、小説とかついて行けない。英訳はないのかなあ」
森村が肩を竦める。
「そっか。モリーはしゃべってる分には普通の日本人だから、そういう苦労はわかんなかったわ」
ひとみが気の毒そうに言った。
「ああ、でも撮影みてるとわかるから助かります」
森村がニコッと笑う。
「あら、じゃあ、モリーのためにも張りきっちゃう」
お茶目に言うと、ひとみは次の撮影のためにスタンバイした。
モリーは空いたボトルやカップを回収し始めた。
撮影現場ではすっかりモリーで定着した森村は、大抵こんな風に誰にでも可愛がられている。
「モリーって海軍だったって? なんか信じられないけど」
良太の横で天野がぼそりと言った。
「ああ、脱ぐとやっぱ鍛え方違うなって」
「え? 脱ぐと?」
途端、天野が良太に聞き返した。
「ああ、風呂とか入った時?」
「ああ、風呂か」
天野は復唱するように呟いた。
「それに最近朝走ってるみたいで。俺も筋肉全然ないから、週一くらいでジム行ってるんですけど、忙しいとついサボったり」
天野は、なるほどと頷いた。
「俺も週一。週二が今んとこ目標」
良太は、お互い頑張りましょう、と笑った。
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