千雪からしてみると、工藤と良太はお互いに素直でないだけなのだが。
「ほんでセーフやった?」
「当り前ですよ」
そうやって千雪に指摘されると、工藤が自分のことを気にかけてくれているのだろうとは思うのだが、逆に工藤にストレスになっているのではないかなどと良太は思ってしまう。
今回も黒幕というにはお粗末な富田の工藤への恨み妬みに端を発した青山プロダクションに対する一連の妨害工作で、ひとみはかろうじて難を逃れたものの、一つ間違えば命にも関わる行為だし、被害者は入院騒ぎの俳優スタッフ三人と吉祥寺のスナックの女の子も加えると四人、その上に良太だ。
轢き逃げ事件は小宮山の自演だから被害者とは言えず、いくつかの微罪では加害者だ。
仕事上トラブルは承知の上とはいえ、こういった犯罪行為は想定外で、富田は逮捕されたが、工藤に対しての攻撃で、工藤が精神的なダメージを被ったのは確かだ。
「富田ってやつが工藤さんに対して一方的な恨みでやったって?」
千雪の問いに、良太は最初のライト落下事件から順を追って経緯を話した。
「ライトを故意に落とすとか下手すると殺人事件やし、下剤を飲ませるとかかて、被害者の体調によっては重病になっとったかも知れんし、轢き逃げが自演やったとしても打ち所が悪ければ本人死んだかもしれんわけで、たまたま被害が大きくならんかっただけの話や。悪質やで」
一通り話を聞いた千雪は強く言い放つ。
「良太の痴漢事件かて、加藤さんが撮ってなかったら、騒いだ女が有利になっとったか知れん。ネットで拡散したりで痴漢冤罪とかは晴らしても疑いの目を向けられることもある」
あらためて千雪にはっきり言われると、良太も加藤が執拗以上に撮ったこともわかる気がする。
「加藤さん、即、SNSで拡散してくれて正解やった。女は捕まっただけやのうて業界追放されて当然や」
千雪は冷たく言い切った。
「ほんっとに、富田ってやつ、出くわしたらボコボコにしてやりたい気分ですよ」
淡々と千雪に説明されると良太の中で沸々と怒りが舞い戻る。
「せえけど、天野さんの発言、気になるなあ」
ややあって、千雪がぼそっと口にした。
「そうなんですよ、あんなこと人前で言うもんだから、ネットがちょっと騒いだくらいでよかったですけど。加藤さんの動画もありましたし、俺を助けるために言ったらしいってことで、ヒーロー扱いで人気上昇?」
「いや、もし加藤さんの動画あれへんかったら、あの女の正体わかれへんかったら、天野さんの発言、多少は良太に有利に働いたかもしれんし」
千雪の発言に良太は背筋が寒くなる。
「でも、そうなると、天野さんと俺、変なスキャンダルになったかも。ほんと、冗談じゃないですよ。とにかくその件に関しては、いずれにせよ天野さんの事務所にお詫びを入れないとなあ」
「良太の思考、ずれとるわ」
「え? どういうことです?」
聞き返す良太に千雪は笑うだけで答えようとしない。
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