月澄む空に57

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 そうこうしているうちに車はスタジオに着いた。
「そういえば、天野さんの役、四ノ宮刑事って、やっぱモデル研二さんでしょ? なんか撮影見てると段々そう見えてきましたよ」
 ドアを開ける前に、良太はこそっと言った。
「良太に当てられとったら世話ないな」
「なんですか、それ」
 良太は軽く千雪を睨んだ。
 ちょうど監督のカットがかかったところで、良太と千雪がスタジオ内に入っていくと、目ざとくひとみが二人を見つけて駆け寄った。
「早速来てくださったのね、千雪先生」
「はあ、俺の意見が欲しいてひとみさんが言うたはるて、良太が」
 千雪はスタジオ内をざっと見回しながら言った。
「だって、この作品、初めての映像化でしょ?」
「ああ、すると、ひとみさんが映像での原点いうことになりますね」
「んもう、しっかりプレッシャーかけてくださるわね!」
 そこへ森村がコーヒーを配ってきた。
「お世話様です、小林先生!」
「おう、モリー、今日も元気やな」
「はいっ!」
 トレーにコーヒーを乗せた森村は千雪とひとみ、良太にコーヒーを渡すと、次は山根監督のところへ向かう。
「そういえばひとみさん、今回の事件の被害者第一号やったて聞きましたけど」
「あ、そうなのよ! 歩いててちょっと止まったの、そしたらライトが落っこちてきて、もうびっくりよ。一歩間違えばって感じで、まあ、怪我しなくてよかったけど」
 千雪に事件の話題を向けられると、ひとみは演技のことより先に事細かに話す。
「そう、あの時、実はケーブルが切られてたらしくて、ぞっとしたわよ。それから、お腹壊す人がいたり、ひき逃げ事件! あれ、山さん、小宮山さんの自演だったってわかったんだけどね。結局、関係者捕まったし」
「黒幕が富田って」
「そ! しばらくほんとビクビクしながら撮影してたのよ。千雪さんがもちょっと早く顔を出してくださってたら、もっと早く事件も解決したのに」
「煽てたかて何も出えしまへんけど」
 二人が事件のことを話しているうちに、やがて監督の合図で次の撮影に入った。
 良太は二人が夢中になって事件の話をしている間、スタジオ内を見て回って戻ってきた。
「何? 犯人捕まったんやろ?」
「いや、あの事件は終わりましたけど、今回、ほんと何が起こるかわからないって身に染みたので、ざっと点検するようにしてます」
 千雪に聞かれて、そう答えた良太は事件でなくとも、事故につながるような何かがないようにと撮影に立ち会う際は最初と最後に見て回っている。
「フーン。これ、いつ放映すんの?」
「ちゃんと聞いてなかったでしょ、千雪さん。年明け予定です」
「フーン。ほな、放映前やったからよかったやん。何や今、えろ厳しいみたいやし、警察に捕まったりしたら、俳優なんか微罪でも犯罪者になってまうもんな。また、ドラマの撮り直しとかな」
 二人は隅でこそこそと話していたが、良太は思わず声を上げそうになってかろうじて抑えた。
「そうなんですよ。あの、天野さんの先輩刑事役が小宮山さんで、もしこのままいってたら撮り直しとかえらいことになってたとこです。西野さんにバトンタッチしたんで、今のとこ万事OK」
「あの人、見たことあるわ。前のドラマにも出たはった?」
 千雪は西野を見て言った。

 


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