「西野さん? 千雪さんにしては珍しく覚えてましたね」
「いや、たまたまやけど、原作の中で俺の気に入ってたキャラやってはって、俺の思うとったんとドンピシャやってん」
「え、そうなんですか? ていうか、ドンピシャはそうそうないってことですか?」
良太はつい怪訝な顔を向ける。
「うーん、ここだけの話、ぶっちゃけ、この六条渉は、最初からイメージひとみさんやから、ひとみさん、気にしたはったけど、ひとみさんが動いて話してはったらそれでOKいうか」
「え、やっぱそうなんですか? じゃあ、ひとみさん以外のキャスティングしてたら、まずかったってことか」
眉を顰めて良太は演技をしているひとみに目をやった。
「やから、まあ、そうなったらそうなったで、俺は文句を言うたりせえへんし」
「はあ」
千雪にそう言われても、やはり千雪の作品を映像化する時には、一応千雪の意見をまず聞いてからキャスティングするべきだ、と良太は肝に銘じる。
「天野さんはどうです?」
「うん、ちゃんと四ノ宮やわ。今んとこ良太の二勝いうとこやな」
千雪は腕組みして頷いた。
「あの、勝ち負けじゃないんですけど」
良太は苦笑した。
「凄みはあるな。研二やったらもちょい、どっしり構えとる感じやけど、研二やのうて四ノ宮やからな」
「本物の研二さん、今忙しいみたいですね。こないだ、差し入れに新作和菓子買いに行ったら、秋のお茶会やら何やらで、猫の手も欲しいって」
千雪の同級生で幼馴染という黒岩研二は、良太が携わっているドキュメンタリー番組にも出演してもらったのだが、和菓子屋の三代目の和菓子職人だ。
有楽町にある芝ビルに入っている和菓子処『やさか』のオーナーで、両親が経営する京都の店が本店ということになるが、折に触れて新作を出してくれるので、楽しみにしている顧客も多い。
「せや、テレビに出たお陰で、めちゃ忙しうなったて、ぼやいとったわ」
良太はハハハと空笑いする。
檜山にしても研二にしても、どっと人に知られて良し悪しというところのようだ。
「急遽職人さん募集して、シフト組んだらしいけどな。京都のおっちゃんの店まで飛び火してもて、向こうも天手古舞や言うとった」
「へえ、テレビって、まだまだやるもんですねえ」
「何言うてんね、自分が作ったくせに」
「や、俺が作ったわけじゃなくて……」
と、良太のポケットの携帯が震えた。
「ちょっとすみません」
スタジオを静かに出ると、携帯の文字は工藤を表示していた。
「はい、お疲れ様です。ええ、今、千雪さんいらしてます」
すると工藤もこれから行くと言って携帯は切れた。
「工藤さんも来るそうです」
中に戻ると、良太は千雪に言った。
これだからな。
千雪さんがいるって聞けば即、来るわけだよ。
良太の心の中ではまたぼやきが出る。
「ふーん、やっぱ、良太のこと気になるんや、工藤さん」
「ちょっと殴られたって、気にしてるだけですよ」
ついつい、また捻くれた言葉が口をついて出る。
「あほやな、工藤さんが気にしとんのは天野さんのことやろ?」
「は? 天野さん、ですか?」
良太は今一つ千雪の話が飲み込めず首を傾げる。
ああだこうだ言い合っているうちに、山根のカットがかかり、休憩に入った。
「小林先生」
二人を見つけて意気揚々とやってきたのは天野だった。
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