月澄む空に69

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 外は朝から少し肌寒く、冷たい風が通りを吹き抜けていた。
「ただいま戻りました」
 森村が三人分の弁当を入れた袋を下げて戻ってくると、壁の時計がちょうど十二時になった。
「お帰りなさい。ありがとう。じゃあ、早速お昼にしましょうか」
 鈴木さんが立ち上がってキッチンに向かう。
 森村は窓際の大テーブルへ弁当を並べた。
「なんか、モリー、今日、元気ないと思いません?」
 良太は自分のマグカップを持ってキッチンに行くと、小声で言った。
「やっぱりそう思う? 顔が沈んでるわね」
「何かあったのかな」
 こそこそと言いながら二人は首を傾げた。
 良太も森村の横に座ると、鈴木さんが熱いお茶を入れたカップを各々の前に置いた。
「このカツどん、絶妙!」
 ひと口齧って良太が言った。
「今日のお任せ、ハンバーグも正解。やっぱりマル猫さんとこのお弁当、美味しいわね」
 鈴木さんもそんなことを言いながら箸をすすめる。
 いつもならそこで森村も必ず何か一言ありそうなのだが、今日はやはり言葉もなく一心不乱にステーキ弁当を口に運んでいる。
 良太は鈴木さんと目配せしてまた首を傾げつつ、卵が絡んだかつ丼を平らげる。
「良太ちゃん、午後は何時ごろお出かけ?」
「三時過ぎでいいかな。スタジオだし」
 夕方からまた『検事六条渉』の撮影が入っている。
「工藤さんはMBCの方の撮影? お帰りになるのかしら」
「早朝ロケで、今日の撮影はお昼頃に終わるようなこと言ってましたけど、午後から東洋商事のはずです」
 夕べ帰ってきたのは午前一時くらいだったはずだが、工藤は今朝四時には出て行った。
 一応、工藤の部屋のテーブルに置いていたベーグルサンドはなくなっていたから食べたか持って行ったのだろう。
 正味三時間も寝てないじゃん。
 良太はぼそりと心の中で呟いた。
 一昨日の晩、工藤がエロオヤジと化してくれたお陰で、昨日の良太はパワスポの打ち合わせに行く時まで身体もバキバキだったのだ。
 昨日の朝、申し訳程度に工藤がコンビニのサンドイッチやスープとか買ってきてくれたのだが、ついムスっとしたまま工藤を送り出してしまったことが、結局良太は気になっていた。
 わざわざ電話をかけて報告するようなこともなく、昨日から工藤と言葉を交わしていない。
 あーっ! 俺ってほんと、バカだ!
 ほんといって、自分の頭を拳で殴りつけたいくらいな良太の横で、森村は黙ったままコーヒーをすすっている。
「あ、モリー、なんか、あった?」
 恐る恐る良太は口にした。
 森村はじとっと良太を見つめたかと思うや、いきなり良太に抱き着いた。
「どうしよう! もうダメかも!」
「え、おい、モリー、何があった?」
 ガシッと良太にくっついたまま離れない森村を鈴木さんも目を丸くして見つめた。

 


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