月澄む空に71

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 ソフィと森村はようやくオフィスを出ると、軽くキスをしてソフィが笑顔で帰っていくのを良太はドア越しに思わず見ていた。
 やっぱモリーってアメリカ人なんだ。
 などとどうでもいいことを脳内で呟きながら、到底俺には真似なんかできないさ、などと良太はチラリと工藤を見やる。
 森村はさっきまでとは打って変わってルンルンした顔でオフィスに戻ってきた。
「よかったじゃん、仲直りできて」
 良太が声をかけると、「はい!」と森村は笑顔で返事をする。
「ただ、サラがせっかく日本に来てるのに、俺、仕事で案内もできないって言ったら、ソフィが案内してくれるって」
「そういうことなら、今夜はスタジオだし、早めに帰っていいよ」
「え、ほんと? よかった!」
 森村は全身に嬉しさが溢れている。
「サラは、俺が入隊してからフェイドアウトして以来、全然会ってなくて、最近俺が日本にいるってのを高校の友達に聞いたらしくて、メールくれたんで、日本に来る時は案内するなんて俺メールしたんだよね。まだソフィと付き合う前」
「同じ街にいたんじゃなかったっけ?」
「サラはUCLAに行って卒業してからも向こうの会社入ったらしくて」
「そうなんだ」
 同じアメリカでもニューヨークとロスアンゼルスでは飛行機でも六時間はかかる。
 森村が除隊して大学に入ってもそれではなかなか会えなかっただろう。
 まあ、大学の時は肇とたまに実家に行った時会ったりもしたけど家がなくなってからは、肇ともかおりちゃんともついこの間まで会うことなんかなかったもんな。
 近いとこに住んでたってそんなもんだから、人との出会いなんてちょっとタイミングがずれたら一生会うことなんかないかも知れない。
 そういうことを考えると、出会いとかって、すごく重みを感じるよな。
 良太が感慨にふけっているうちに、戻ってきて二、三電話をしていた工藤はまた立ち上がった。
「フジタ、行ってくる」
「あ、行ってらっしゃい」
 そうだった、今日フジタ行くんだっけ、工藤。
 良太が言うと、鈴木さんや森村も行ってらっしゃいと工藤を送り出した。
「今日はお帰りになるのかしら、工藤さん」
 閉められたドアの方を見て鈴木さんが言った。
「今日接待で、明日の土曜日ゴルフって言ったんで、ゴルフバッグ今朝ホテルに送りました」
「あらそう、お忙しいのに、ゴルフのお付き合いとか、大変よね」
 鈴木さんがまた心配そうな顔で言う。
「実は俺もゴルフやれとか、工藤さんに言われてて。秋山さんや志村さんはたまに、スポンサーとゴルフ行ってるじゃないですか」
「良太ちゃんも? まあ、そうね、お酒飲むよりは健康的かもしれないけど」
「そういう付き合いも仕事のうちなんだと思うんだけど、俺、てんで初心者だし、それにゴルフ道具とか高そうじゃないですか」
 ゴルフをやれば、接待ゴルフとか、少しでも工藤の仕事の緩和するかもだとは思うし、工藤と一緒にグリーンを歩くのも悪くないかも、などと思わないではないが。

 


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