「まさか、工藤さん、だから俺にゴルフやれって言うんじゃないだろうな」
ひとみのセリフに、こないだって随分前だぞ、と思いつつ怪訝な顔で良太はぼそぼそと言った。
「え、そんな、接待のためにやらされるとか、やめた方がいいですよ!」
妙に声高に天野は良太に詰め寄った。
「あ、いや、やらされるとかってわけじゃ………」
「やあね、天野ちゃんってば。別に斎藤じいに良太ちゃんが取って食われるわけじゃないから」
ケラケラとひとみが笑う。
「斎藤じい、良太ちゃんもお気に入りだから、一緒に話とかしたいだけよ」
「斎藤さんには映画の時、いろいろ面倒おかけしたしなあ。でもゴルフったってちょっとやそっとじゃできないでしょ?」
良太は当時のことを思い出しながら言った。
「誰でも最初は初心者でしょ?」
「じゃ、やっぱ俺と一緒にまずどこかでやりましょうよ」
気合が入った声で天野が言った。
「でも天野さん、スケジュール一杯じゃないですか?」
「いや、俺もそのうち、接待ゴルフとか駆り出されるかも知れないし、時間取りますよ」
「あ、はい、じゃ、もし都合があえば」
すると天野はにっこりと笑った。
やはり普段あまり笑わない人が笑うと、いい感じに思えるようだ。
「あ、でも、斎藤さんに面倒かけたって、何かあったんですか?」
天野が突っ込んで聞いてくる。
「ああ、いえ、美聖堂はうちの大事なスポンサーなんですけど、前に斎藤さんが推していた俳優さん、ちょっとトラブルがあって、俺、降りてもらったんです。斎藤さんには事後報告になってしまって」
さらりと言った良太のセリフに、天野はしばし二の句が継げなかった。
「どうかしました?」
きょとん顔で見上げる良太に、「い、や、何気に良太さん、非常なとこあるんだなって」と天野は言った。
「え? ああ、やだな、トンデモトラブルだったんですよ、今回みたいに警察沙汰にはならなかったけど、スレスレ。いろんな人がいるから」
良太にとってはあまり思い出したくもないトラブルだ。
「ふーん、今度じっくり聞かせてください。あ、その前にゴルフセット買いに行きましょうよ」
助監督に呼ばれた天野はそんなことを口走りながらセットの方に向かった。
「なんか、えらくゴルフに乗り気だなあ、天野さん」
「うーん、ゴルフに乗り気なのかなあ、天野ちゃん」
良太がボソッと口にするとひとみがまたやって来た。
「だってもうゴルフセット買いに行く気でいますよ?」
聞き返した良太に、ひとみは何も言わず小首を傾げた。
と、その時、良太のポケットで携帯が震えた。
スタジオを出て、廊下で電話に出ると、工藤だった。
「お疲れ様です。ええ、こちらは順調です。ホテルに送ったゴルフセット届いてますよね?」
「ああ。届いた」
いつものごとく不愛想な声だ。
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