月澄む空に78

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「お前も庭師ってことで出させてもらうか?」
 すると藤田がまた意外なことを言う。
「やめてくださいよ、お父さん」
 晴久は軽く否定した。
「いやいや、うちの庭の剪定は晴久がやってくれるし、こいつ、実は樹木医でもあるんだ」
「樹木医はなかなか難易度が高いと聞きますが」
 藤田の自慢話に、おぼっちゃまと思っていた晴久の意外性に工藤もへえ、と思う。
「小さい頃から出入りの庭師に何かと教わって、学生の時は弟子入りしてたくらいで、うちを継がせるのが申し訳ないと思ってる」
 藤田の言葉は真実味があった。
「今時同族会社って言われるだろう? だが、こう見えて会社中見回しても経営手腕はピカイチなんだ」
「何ですか、背中がむず痒いようなことを言わないでくださいよ」
 晴久は低く笑った。
 フジタ自動車のデータからも、その実力は確かのようだと、工藤も知ってはいた。
 フン、そのうち、良太をゴルフにでも連れてくるか。
 俺より良太ならこの男とウマが合うかもしれない。
 藤田のワンマンとも思っていたが、やはり案外冷静に周りを見ているのだな。
 この親子はどうやらなかなかうまくいっているようだ。
 いがみ合っているとか傍で聞く噂などあてにならぬものだ。
「ほら、お父さん、帽子、ちゃんとかぶってくださいよ。秋といってもまだまだ熱中症のシーズンだ」
「わかっとるわ」
 ゴルフコースを回っている時にも晴久は労りを忘れない、それは工藤も感じたことだ。
「次は広瀬くんを忘れずにつれて来なさい」
「はい」
 藤田に念を押された工藤は、いきなりゴルフセットを押し付けられて文句の一つでも言っているだろう良太を思い浮かべて苦笑した。
「はあ、今朝届いてて」
 当の良太は、スタジオにやってきてすぐ天野につかまり、ゴルフセットを買いに行こうといわれて実はと答えたところだった。
「接待に使うから経費で落とすとかなんとか」
 とりあえず言い訳をしたが、まさか天野と一緒に買いに行くなどと言ったために工藤が慌ててオーダーしたとは、良太はつゆほども知らなかった。
「そっか、経費、かあ。俺の場合は経費になるのかな。ま、いいや、でも買うの付き合ってくださいよ」
「ええ、いいですよ?」
「じゃあ、今日は?」
「今日、ですか?」
 良太は言われて逡巡した。
 スケジュールに追われている天野のことだ、次はいつ時間が取れるかわからないのかも知れない。
「いいですよ。今日は六時頃には撮影終わる予定ですから、延長にならなければ」
「よおし、気合入れて、リテイクなしで行くぞ!」
 天野は俄然上機嫌で両方の拳を握りしめた。
「どうしたんですか? 天野さん」
 森村が不思議そうに天野を見た。
「や、ゴルフセットを買いたいらしくて、一緒に行ってくれって今日終わったら」
「へえ、そうなんですか。良太さんが買ったから天野さんも欲しくなったんだ?」
「お互い初心者だからじゃないか?」
 良太が笑うと、森村は、うーんと言いながら頷いた。

 


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