月澄む空に94

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「何かあったの?」
「オフィスイシカワ、倒産、だそうです」
 良太は必要最低限の情報を口にした。
「え、まあ…………」
 鈴木さんもこれには何も言葉が見つからないようだった。
 実はここ数カ月のうちに名の知れた俳優やタレントが所属する芸能事務所の倒産や閉所が相次いでいた。
 ネットやSNSなどが一気に世界中を席巻し、テレビなどがあらゆるものの発信源になっていた時代はもはや終末を迎えつつあるというのは言われてきたことだが、一時期のように芸能事務所が業界に力を持つこと自体が変貌しつつある。
 強引なやり方でテレビ局に圧力をかけてきたようなところもあるが、地道に俳優やモデルを育ててきたところも多い。
 経済不況や物価高のあおりもあって経費が掛かるドラマ制作が打ち切られたりしたが、今また違った形でドラマが復活しつつあるものの、制作はテレビ局だけではない。
 中堅どころの事務所すら立ち行かなくなるとなれば、制作会社関連でも当然影響を受ける。
 下請けの中小の制作会社などは、ちょっとした状況の変化にも対応できず、倒産に追い込まれたところもある。
 青山プロダクションとは古い付き合いだった制作会社が倒産し、自殺した社長の猪野のことはきつい事実として未だに良太の中にある。
 その頃、やはり相田企画も倒産し、こちらは相田が個人スタッフとして青山プロダクション関連の仕事を請け負っている。
 親の工場が差し押さえになったといったこともあり、よその事務所であれ倒産などと聞くと、良太には精神的に重く受け取ってしまうのだ。
「良太ちゃん、大丈夫?」
 良太の事情を色々とよく知る鈴木さんは、心配そうに声をかけた。
「あ、すみません、倒産とか聞くと、やっぱり重いですよね。ただ、倒産のことは所長から前に話を聞いていたみたいで、三枝さんは所長の知り合いの事務所に移籍するそうです」
「そう、でも大変ねえ」
「ですね。トップクラスの俳優さんであれば、個人事務所を開くという選択肢もあるかもですが、正直、三枝さんの場合はちょっとそこまでの力はまだ。今度の事務所は三枝さんを歓迎してくださるそうなので、とりあえずよかったです」
 タレントを多く抱える芸能事務所は今、考えどころかもしれない。
 青山プロダクションもタレントの事務所と思われがちだが、この会社はもともとコンテンツ制作がメイン業務なわけで、工藤もタレントのマネジメントに手を出すつもりはなかったのだが、わけアリだったり押しかけだったりする所属俳優がいるし、スポンサーとのタイアップでオーディションした南澤奈々は正規入社だが、実は裏話があったと良太が聞いたのはあとになってからだ。


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