以前、沢村がフロリダのスプリングトレーニングに参加した時から、レッドイーグルスのブルックス監督が沢村を気に入って、以来、MLBに誘っているらしいとは聞き及んでいた。
だが実際問題として、今、その答えを出すのは沢村にとってひどく難しく思われるのだろう。
何がと言って、佐々木のこと以外にその理由はない。
「まず、お前がどうしたいかだろ? 行きたいのか行きたくないのか」
良太が問うと、「お前を連れてアメリカに行くって言ってた頃は、まだ俺も正規の商品価値があったんだ」と沢村は言った。
「けど、今の俺は日本ではもしかしたら三冠王かも知れなくても、MLBでは果たしてどうだか。二十五日で半額セールのクリスマスケーキにはなりたくないしな」
「ったく、何言ってんだよ。ベストな時ってひとそれぞれだろ? それに今は年齢的にも数年前と比べても変わってきてる。第一、ブルックス監督がお前を欲しいって言ってるんだろ?」
何となく、沢村は行かない理由を探しているように良太には思えた。
「まあ、今年のWBCでのパフォーマンス次第だろうって、ブルックスには伝えたんだが、ブルックスはWBCでうまくいかなくても構わないとか言いやがるし」
今年は四年ぶりのWBCが開催される。
実はMLB行きを狙ってWBCでいい成績をおさめようという心づもりの選手はちらほらいるのだ。
無論、実際向こうへ行ってやってみなければ活躍できるかどうかなどわからないとは思うものの、沢村ほど必ずやってくれると思えるような選手は良太の中ではいないのだ。
野球をずっとやってきた者として、子どもの頃から良くも悪くも一緒にやってきたような沢村がプロ野球選手となって活躍しているのは自分のことのように嬉しいし、さらにMLBに行っても活躍できるものなら、絶対行ってほしいというのが良太の思いだ。
「俺の夢を沢村に果たしてもらおうなんてのは、虫のいい話とは思う。けど、可能性があるのにやってみないってのは、お前らしくないんじゃないか?」
「わかってるさ!」
沢村は吐き出すように言った。
「けど、野球だけが俺の全てじゃない。むしろ、野球なんか捨ててもいいって思ったこともあるし」
「お前が野球捨てたりしたら、佐々木さん怒るぞ。それにこの先ずっと、自分のせいでお前が野球捨てたって重荷になっちまう」
すると沢村はイライラと立ち上がった。
「そうなんだよ。だからジレンマなんだろうが!」
沢村はカパカパとワインをグラスに注ぐ。
「俺が佐々木さんのためにMLB行きをやめたとかって知ったら、一緒にいられないって言うに決まってる。かといって、MLB行きを決めたら、やっぱり終わりだ」
それを聞いて良太は訝し気に沢村を見る。
「待てよ。そこでどうしてそうなる? MLB行きを決めたからって……」
「最低でも二年はいてくれって言われている。今のまるで綱渡りみたいな俺と佐々木さんじゃ、二年とか、長すぎるだろ」
そこで大きく息を吐くと、沢村はグラスを一気に空けた。
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