月澄む空に97

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 二年か。
 確かに、遠恋は難しいかも知れない。
「でも、オフには日本に来るわけだろ? 今までだって遠征行ってる時って会えないことがほとんどだったじゃん」
 良太はかすかな希望を口にした。
「それでも。俺は怖いんだ。距離があるってだけで、佐々木さんの俺への熱とかダウンしそうだし。日本なら、俺がしつこく電話したりもありだけど」
 結婚している夫婦だったら、まだ夫の単身赴任で済む話も、何もそういった繋がりもない場合、互いのモチベーションが下がったら、フェイドアウトという可能性もあるかも知れない。
「やっと、土地に何か建ててもいいってことになったのに。それも佐々木さんの意向じゃない、佐々木さんのお母さんの意向が大きいわけで」
「佐々木さん、あんまり乗り気じゃないのか?」
「多分。それこそ、二年も向こうに行ってたら、その間に気持ちがどう動くかわからないとかってペンディング間違いなし」
 佐々木はバツイチで、嫁に出て行かれた形だから余計に人の心の移り変わりを考えてしまうのかも知れない。
 誰しも絶対心は変わらないなんてことはないのだから、良太もわからないでもないが、長年連れ添ってきた夫婦にもいくらでも危機は訪れるわけで。
 だがそこまで佐々木が考えてしまうのは、やはり互いに同性で、沢村が人気アスリートであることが大きいのだろう。
「いっそ、佐々木さんに、一緒に行こうって誘ってみたらどうよ?」
 無茶ぶりかもしれない選択肢を良太は提案してみた。
「今まで日本国内ですらほとんど動かなかった人が、いきなり海外とか行くと思うか?」
 苦々しい口調で沢村は言った。
「それに、お母さん一人置いて、海外とか、考えられないだろう、佐々木さん」
「ああ、そうだよな。お母さんって存在が、佐々木さんには大きいよな」
 良太も思わず天を仰いだ。
 母一人子一人、まだ若ければそれでも可能性は上がるが、佐々木の母親は七十の大台だ。
「お母さんも一緒に、なーんてわけにはいかないよな」
「行くかよ」
 沢村は苦笑した。
「思うに、仕事はどこでもできると思うんだ。仕事で向こうへ行くとか結構あるし、今はオンラインで何とでもなるだろうし。結局、お母さんがネックかあ」
 ネックなんて言ったら、佐々木さん怒りそうだけど、何とかならないかなあ。
 良太は考えあぐねた。
「要はさ、俺が向こうへ二年行くってなったら、佐々木さん、頑張れよ、俺らのことはリセットだ、って言うに決まってる。そんでもって、そうなるのが嫌で行かないとか言ったら、俺のことで行かないとかあり得ないからリセットするって言うだろう」
 そういうと沢村は無暗に笑った。
「どっちに転んでも、佐々木さんの答えは、リセットしかないんだ」

 


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