五時半を過ぎ、鈴木さんが帰り支度を始めた頃、工藤のホットラインの電話が鳴った。
ここのところ鳴らなかったのだが、慌てて良太は受話器を取った。
「…………工藤はいない。おい、お前、一体何者だ? 工藤にどういう用件だ? 警察に言ってもいいんだぞ」
良太はすごんで見せたが、相手はすぐ切ってしまった。
「……笑ってやがった?」
密かに笑い声が混じっていた。
珍しく八時少し前に工藤が戻ってきた。
「……あの、また電話ありました」
工藤の視線が険しくなる。
「工藤さん、いないっていったら、すぐ切れたけど」
「そうか」
あっさりと返事をして、工藤はとっととオフィスを出ようとする。
「ちょ、待ってください! 一体、あいつ何者なんですか!? こないだ襲われたことだって、やばいことになってるんなら、警察に……」
「警察に俺が泣きつけって? マル暴は俺の名前をリストからはずしたことはない」
良太の言葉を遮り、淡々と工藤は言い放つ。
「余計なことは考えなくていい。とっとと部屋に行って寝ろ」
「余計なことって、なんだよっ!!」
閉じられたドアに喚き散らし、良太は椅子を蹴飛ばした。
「ってーーー」
椅子はびくともしないかわり、良太の足はしばらくじんじんと痛かった。
良太の焦りをよそに、青山プロダクションは例年にない忙しさで、師走を走っていた。
滅多に会議なんてものはやらないが、オフィスで打ち合わせ程度のミーティングはちょくちょく行われている。
その頻度が年末にきて高い。
小笠原と志村はドラマの収録に入っていたが、それぞれのマネージャー真中と小杉、アスカや奈々も秋山や谷川とともに珍しくその日は朝から社員が顔を揃えていた。
「南澤は明日の『藤永製菓』、十時からです。そのCF撮りのあと、七時からFTVドラマの収録です。明後日はNTVの特番が朝から入ってます」
「志村は明後日十一時から舞台の顔合わせで、映画の方も年内に顔合わせがあるんですよね、工藤さん。明後日は一日MBCのドラマの収録です」
谷川に続いて小杉はタブレットを確認しながら報告する。
「顔合わせの日程は近日中に決める。小笠原は?」
「えっと、明日は午前中ポスターの撮影、午後は三時から『集洋社』の『スパイシー』インタビュー、五時からMBCのドラマで六本木スタジオ。明後日は『MEC電機』のCF撮影が午前十時からで、そのあと特番のロケで沖縄です」
真中が懸命に自分のメモノートを読み上げるのを良太がタブレットで確認する。
入社以来、工藤だけでなく、それぞれタレントのスケジュールを良太がチェックし、管理している。
社員は会社のサーバにアクセスしてタレントのスケジュールをタブレットや携帯で確認することができるようになっている。
「明日は講英社『ビジョン』のグラビア撮影のあと、ドラマの記者発表がホテル『オーニシ』で午後二時からです。明後日から三日間、NTV特番ロケでローマ、戻って翌日は、午後から『美聖堂化粧品』のCF撮りが入ってます」
「わかった。お前はどうなってる」
秋山がアスカのスケジュールを報告すると、良太の後ろから工藤がタブレットを覗き込む。
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