「明日は『山村損保』が十一時からか、十時に六本木なら間に合うだろう。先に谷川と一緒に『藤永』に行ってくれ。適当に切り上げて山村へ行けばいい。『パワスポ』が四時か。二時からの東洋商事、お前も同行しろ。一階のロビーに一時半。飯は食っとけよ」
モニターでそれぞれのスケジュールをしばらく眺めてから工藤は、次から次へと良太に言い渡す。
「え、『藤永製菓』ですか?」
「藤永製菓』といえば、会社にとって大事なスポンサーのひとつだが、まだ良太は担当者に会ったことはない。
「ああ、『東神不動産』の浦野がまた面倒なことを言ってきたからな。それと、明後日、急遽、小笠原のロケに行くことになった。撮影、志村と一緒に顔出しておいてくれ。それとホテル『オーニシ』の記者発表、秋山と一緒に行け」
あっと言う間に良太のスケジュール欄が塗りつぶされる。
打ち合わせが終わると、それぞれが目的地へ向かった。
コーヒーを飲むのもそこそこに工藤もでかけてしまうと、良太と鈴木さん二人のつかの間の静けさとなった。
秋山さんも難しい顔してたな。
今年は何だかみんなもきつそう。
明日からは自分も出ずっぱりになることを考えると、企画書やもろもろの書類を今日中にできる限りやっておかねばならない。
工藤とまともに口が聞けるのは明日くらいだ。
でも、話をする時間なんてあるんだろうか。
良太はため息をつく。
こないだも取り付く島がないってやつだった。
仕事が詰まっているのは仕方がないことだ。
けど、工藤、一人で動くのが多いってことだろう?
そんなとき、襲われたらどうすんだよ! こないだみたいに、何人もでこられたら……。
そういや、工藤、車ぶつけられたとか言ってたけど、何か空々しい言い訳だったよな。
あれもひょっとして………
考えれば考えるほど不安が募るばかりだ。
何もできないのが良太ははがゆくてしかたがなかった。
翌日も、待ち合わせが外でなくてよかったと思うような風の強い日になった。
十分遅れでやってきた工藤は路肩に停めてある車に良太を促し、日本有数の大企業の本社ビルが立ち並ぶ通りを、東洋商事へと急いだ。
KBCテレビの創立記念番組は、巨大コングロマリット東洋グループ傘下の東洋証券とタイアップで進めていたが、親会社である東洋商事がそこに名を連ねてくれることになった。
ドラマの撮影は、志村嘉人主演で既に始まっている。
東洋グループ総帥は、グループ会長の綾小路大長で、大長の従兄弟にあたる綾小路徳俊が東洋商事の社長を退いたあと、パリ支社長を務めていた大長の長男紫紀が社長に就任することが決まっている。
正式には四月からということだが、工藤がパリで紫紀と会う機会があり、ドラマのタイアップの話に乗ろうということになったのだ。
その紫紀から一週間程日本に戻っていると連絡が入り、ぜひおめにかかりたい、と言ってきたらしい。
「まだお前は会ったことがなかったか」
「パリでちらっと見かけたくらいです。…っていうと、あの京助のお兄さん、ですか?」
「そうだ」
げ、あの京助のアニキか。
弟の涼には初釜の時に会ったが、京助には似てなくて、いいヤツだったけどな。
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