その社長、京助に輪かけてすげーヤツだったりして。
つまり、千雪さんのお姉さん、じゃない、従姉の小夜子さんの、旦那か。
良太は助手席であれやこれやと頭を巡らせた。
「奈々はどうだった?」
ハンドルを切りつつ工藤が聞いた。
「いいものになりそうですよ。『藤永』の市川部長、えらく奈々ちゃんのこと気に入ってくれてるみたいで。市川さんにはちゃんとご挨拶しときました」
「『山村』はどうだ?」
「ええ、幸村さんのお話では問題はなさそうです。一度食事でもということです」
「そうか、お前の空いてるときにセッティングしておけ」
「あ、はい」
東洋商事受付で案内されたエレベーターが高層階で止まると、待っていた男性社員に促されて通されたのは、社長室続きの、おそらくただ仕事関係であれば通されることはないだろう応接間だ。
すべてにおいて重厚な印象を受ける。
中央の大きな柱時計がゆったりと時を刻む。
なにせ広い。
今度は女性社員が、かぐわしい香りの紅茶を運んできた。
生のチョコレートが小さなトレーに積み上げられている。
良太はチョコに手をのばした。
「うんまい~~」
思わず口にする。
「工藤さん、これ、おいしいですよ、食べないんですか? とろけ感が絶妙……」
「俺はいい」
工藤はソファに深く腰を下ろし、タブレットを開いてスケジュールチェックに余念がない。
うう~チョコなんかに気を取られてる場合じゃなかった。
でもこんなところで、やばい話なんかできないしな………
車の中で話したのは仕事のことだけだったし。
クッソ………
十分ほど待たされた。
「お待たせしました。お呼びたてして申し訳ありません、工藤さん」
工藤に習って良太も立ち上がったが、社長室から秘書らしき社員を従えて現れた紫紀は、気さくに笑った。
京助をもっと知的に渋くした感じだ、と良太は思う。
工藤と目線が変わらないということはかなり背が高い。
ただし容易に詮索を許さないバリヤーがある。
髪は黒いが、紫紀はヨーロッパの雰囲気を持つ男だと、漠然と良太は感じ取った。
「うちの広瀬です。私が参上できないときは、広瀬が参りますので、よろしくお願いいたします」
「広瀬と申します。よろしくお願いいたします」
良太は自分の名刺を差し出し、綾小路紫紀の名刺を受け取った。
「こちらこそ、よろしくお願い致します。こちらは秘書の野坂です。私も不在にしている時が多いので、連絡などは野坂の方にお願いいたします」
一通りの挨拶を済ませると、野坂という背の高い青年を下がらせ、「どうぞお座りください」と紫紀はにこやかに言った。
「ちょっと今バタバタしておりまして、ここだけの話、社長が入院致しまして、急遽私がパリから呼び戻されたんです」
「社長が? それでお加減の方は?」
工藤は淡々とした口調で尋ねた。
「狭心症の持病が前からあったんです。今は病室で元気に怒鳴り散らしてますよ。私の方は、取引先には、一応四月からとご連絡してありますが、事実上、当分パリと東京を行ったりきたりです」
「なかなか大変ですね。でも会長もいよいよ紫紀さんが戻ってこられるということで、何かと心強いでしょう」
「さあ、どうでしょうね。それより、噂の良太くんにお目にかかれて光栄ですよ。小夜子や涼からいろいろ聞かされてます。ドラマやCMにも出演されたとか」
いきなり振られて良太はうっと言葉に詰まる。
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