夢ばかりなる15

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  ACT 2
 
  

 工藤の命により小笠原のCF撮影に立ち会うことになった良太は、翌朝撮影が行われるスタジオに向かった。
 広告代理店プラグインの藤堂を通じて紹介された男は波多野と名乗った。
 今回のCMは、顧客や社会のニーズを基に、企業の業務プロセスや製品、ビジネスモデル、企業文化などの変革や企業の競争力を強化するための働き方改革を目的としたDXを売り込む、というものである。
 老舗の電機メーカー『MEC電機』広報部長の肩書きを持つ波多野は、要点を踏まえながら無駄のない口調で応対した。
 そんなエリート然とした波多野を相手に、いかにして市場を開拓するか、書類だけでなく、藤堂は持参したタブレットでさりげなく納得させていく。
 商品の広告戦略だけでなく、クライアントに対しても相手に合わせた口述戦略を見せつけられ、良太は改めて藤堂という男の見かけではわからない底知れなさを感じた。
「良太、大丈夫か?」
 顔を上げると、小笠原が見下ろしている。
「何が?」
「何がって、今、すげぇ難しい顔してっから、てっきり具合でも悪いのかと思ってさ」
「そうか? 別に平気だぜ。あ、そろそろ撮影始まるぞ」
 制作会社のディレクターが小笠原を呼んだ。
 小笠原に心配されるなんて、終わりだぞ。
 良太は苦笑いする。
 工藤は夕方から沖縄だっけな………。
「良太ちゃん、どう思う?」
 ぼーっと撮影風景を見ていた良太は、藤堂に意見を求められて、はっとする。
 いかん、いかん、仕事中だぞ!
「え……っと、あの、そうですね、コンセプトは商品の正統性、ということですが」
 小笠原をメインにしたリーマンやOLを登場させ、先に撮影された背景動画と合成する。
 見せてもらったラフと今撮影したばかりの小笠原を、モニターで見ながら良太は続けた。
「イメージだけみると、タレントの表情が少し気になります。最初から最後まで真面目で引き締まった小笠原というのがちょっと……。小笠原を使うのであれば、いつものちょっと人をくったような表情の絵とかも入れてみたらどうかと思うんですが」
 口に出してみるとさっきから漠然と感じていた違和感が何なのかがわかる。
 小笠原が小さく見えるのだ。
「それじゃ、アスカを使う意味がない。こいつがそんなしおらしいタマか! 見てる方はアスカだから見るんだ。アスカ、いつもの何様な態度はどうした?!」
 以前、工藤と一緒にアスカのCM撮影に立ち会った時のことだ。
 工藤に言われてアスカはプンプン怒ったが、それでも撮影された絵は生き返ったようだった。
 小笠原というキャラが消えてしまったら、小笠原を使う意味がないのだ。
「なるほどなるほど、さっすが良太ちゃん!」
 藤堂は大仰に良太を褒め倒し、波多野やディレクターにすかさずどの絵をどう変えるかざっと説明しただけで、再び撮影に入る。
 何だかな、と即座に判断してさっさと進めている藤堂を見つめながら、良太は思う。
 俺の口からただ言わせたかっただけって気がするな~
「ほんと、さすがっすね」
 振り返ると、隅で小さくなっていた小笠原のマネージャー真中が尊敬の眼差しで立っている。
「やっぱ工藤さんのあと継ぐだけあって、良太さんって何でもできるし、すげーなー」
 真中は良太にとって青山プロダクションでは今のところ後輩と呼べる唯一の存在だろう。

 


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