いまさらだよな。
俺の心がズダボロになろうが、今日は今日だし、明日もくるってことだ。
良太は諦めの境地で一つため息をつくと、今度は工藤と言い争っていた千雪の言葉が気にかかる。
ボディガードとか何とか、千雪さん、言っていたような……。
工藤のやつ、何も言いやがらないし。
『やつら』とか、千雪さん言ってなかったか?
千雪さん、何か知ってるんだろうか?
どこまでいっても自分は工藤にとっては蚊帳の外なのだ。
肝心なことは話してもくれないのだ。
くそっ!
不安は渦を巻いて良太を引き込んでいく。
夕方、大阪の工藤から連絡が入ったが、帰れたら最終便、でなければ明日の朝イチで戻る、と事務的に言って切った。
良太は一旦部屋に戻り、ナータンにご飯をあげると、そそくさとコンビニから買ってきた弁当を食べ、パソコンに向かいながら、帰るか帰らないかわからない工藤を待った。
カタカタカタ………
キーボードの音がやけに大きく響く。
さっきからたいして進んではいない。
打ち込むよりもデリートする方が多いのだ。
夜の闇はひとかけの不安を何倍もの大きさに増幅させる。
別に何かあったってわけじゃないさ。
今夜じゃなきゃ明日って言ってたし。
あと一時間もあれば、日付が変わるだろう。
「よし、帰ろ。明日の朝イチだっ」
ファイルを終了させ、良太はパソコンの電源を落とす。
火元をチェックして、灯りを消そうとした時、ドアが開いた。
ひんやりとした夜の空気とともに待っていた男の影があった。
「あ………お帰りなさい……」
「急ぎの仕事でもあるのか。適当に切り上げろ」
心配で、いてもたってもいられないで待っていた心に冷たく響く工藤の言葉。
「なんで言ってくれねんだよっ? 千雪さんには話せても俺には話せねーってのか?」
カッときた良太は拳を握り締めながら言い放つ。
「あんたが襲われて、怪我したり、命狙われてるの、黙って見てることなんかできるかよ!」
「だったら関わるな」
あくまでも冷ややかな工藤を、良太はきっと睨みつける。
「あんたが千雪さんのことをめちゃくちゃ大事にしてるなんてわかってる。あの人が京助のことを好きだから、あんたはあの人を見守ってやってる。そうだろ?」
溢れる涙を乱暴に手で拭う。
「それはいいよ。わかったよ! でも俺は……俺だってあんたのために、何かしたいんだよ。あんたの死に様なんか見たかないんだよ……」
必死で良太は言い募る。
「なあ、千雪さんの何十分の一でも何百分の一でも、俺のこと好きなら、俺にちょっとだけでも片棒かつがせてくれてもいいじゃん。足手まといになんないようにするからさ」
「良太…いい加減に……」
怒鳴りつけようとした工藤は、涙に潤んだ良太のまなざしの切なさに、言葉を切った。
「だって、ほら、俺、あんたの部下じゃん? まがりなりにも。なんかわからねーけど、ことがおさまったらさ、もう俺のことなんかすっぱりきっぱり、放り出してくれちゃってかまわないから。だから………」
涙がまた良太の頬を伝ってぽとりと床に落ちる。
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