工藤は苦笑しながら首を振ると、良太の頬に手を伸ばす。
「バカやろう………」
指で涙を拭い、ゆっくりと口づける。
優しく、愛しみながら、工藤は良太をしばらく黙って抱きしめていた。
やがて良太を離すと、「もう、部屋に戻れ」と、工藤は言い、階段を下りて行く。
「待てよ! それだけかよ!」
良太に背を向けたまま何も答えず、工藤は駐車場へのドアを開けた。
「工藤のバカヤロぉ!」
しばらく呆然と突っ立っていたが、肩を落とした良太はとぼとぼとオフィスに戻る。
「まさかと思ったぜ。……ったくよ……」
オフィスのドアが閉まるなり、そんな言葉がホールにこぼれたことに、良太は気づかなかった。
「お前、酔ってるな」
携帯の向こうで沢村が苦笑いしている。
「酔ってますよ、いいだろー、いい気分なんだから。そりゃ、俺なんかてんで頼りんなんないしな。ハ……、むしろ、足手まといってことかも」
千雪とのことだって、工藤は何の弁明もしない。
良太が好きだと知っているから、工藤は手を差し伸べてくれるだけだ。
今までに幾度も繰り返した逡巡。
んなこた、わかってるさ!
わかってるけど、ちょっとくらい話してくれたって、バチはあたらねーだろ!!
悔しさと哀しさと切なさが相まって、どうにもいきどころがない気持ちをもてあまし、部屋に帰ってシャワーを浴びると、良太は立て続けにビールをあおった。
もう飲むもんか、と思ったそばから向かい酒だ。
「おいおい、どうしたんだ、良太」
つい、呼び出した相手は沢村だ。
いなければいないでいいや、と思った相手は、どうした、と聞いてくれた。
「俺だって、工藤の足引っ張るようなマネしたかねえし。……じゃあさ、俺、どうすればいい? なあ、俺……、どうすればいんだよ? 教えてくれよ」
酔っているから、そんな言葉さえ簡単にこぼれてしまう。
「俺にそれを聞くか? お前を好きだって言ってる俺に」
おどけたように沢村が切り返す。
「俺の好きは、お前なんかよりずーーっと、真っ直ぐなの!」
声をあげて沢村は笑った。
「わかってるよ、お前、直球勝負しかないやつだもんな。だから、好きなんだぜ、俺は」
良太はそんな言葉を聞きながらいつの間にか眠ってしまった。
工藤は結構参っていた。
自分が狙われているのはわかっているが、それが誰だかまだわからなかった。
理由はおそらく、『それ』しかないが。
だがそんなことを理由に、会社を、良太を巻き込むわけには行かない。
参ってしまうのは良太にもだ。
どうしてあんな、可愛いことが言えるのか。
お前を遠ざけようと、こっちは必死になってるのに。
俺の努力を端から無駄にしやがる。
工藤は苦笑いしながら、車を駐車場に滑り込ませた。
昨日から出ずっぱりで、良太の顔をまともに見ていない。
映画の撮影に利用するホテルを下見に行って横浜から戻ってきたところだが、疲労はたまるばかりだ。
目の前にすっと黒い影が立ちはだかったその時、はっとして工藤は身構える。
「……なんだ、お前か」
「俺で悪かったな。良太かと思ったのか?」
ふてぶてしくはき捨てたのは小笠原だった。
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