「よかったですね、良太が一緒じゃなくて」
電話を切る間際、『T』は言った。
工藤を襲ってきた男のうち、バイクの二人は即死、車の数人も重症を負い、入院したと、『T』は工藤の問いに対して淡々と答えた。
わざとバイクを転倒させたとは工藤は聞かなかった。
だが、『T』自身も部下も、アメリカでそれなりの訓練を受けたと聞いている。
ありえない事ではない。
工藤の車は既に『T』が手をまわし、修理に出ていた。
工藤は幸いにも怪我はなかった。
ベンツがなくても、良太は気づかないだろうと思ったのは浅はかだったかもしれない。
「工藤さん、車、どうしたんですか?」
タクシーで降り立った工藤を見咎めて、偶然居合わせた良太が聞いた。
「オイル交換のついでにメンテに出したんだ」
咄嗟にでまかせを言ったが、良太は訝しげに工藤の後姿を睨みつけた。
あくる日、良太は仕事のスケジュールを調整して、レンタカーを借りて工藤をつけていた。
今度はどういう手段で来るか、ということで頭が一杯だった工藤は、よもや良太がそんな真似をするとは思いもよらなかった。
オイル交換だって?
みえみえの嘘つきやがって!
クソッ、絶対、つきとめてやる。
だが――――――
工藤の後をつけていくと、彼がタクシーを停めた先はT大である。
そして、良太にとっても懐かしいカフェテリアで工藤が会ったのは、トレードマークのメガネをかけた小林千雪その人だった。
古い学生時代に来ていたダッフルコートを引っ張り出し、スーツの上から羽織っている良太は、学生に混じって座っていても違和感なく見えた。
しばらく工藤と千雪の二人はテーブルを挟んで何やら話し込んでいたが、やがて工藤が立ち上がった。
工藤はどうやら良太は気づかずにその場を去ったようだ。
良太は工藤が立ち去っても、動けずにいた。
なーんだ、俺、バカみてぇ……
工藤が隠していることを探ろうとした結果がこれだった。
こんなとこで工藤は千雪と会っていたのだ。
しかも千雪はあのメガネだ、本当の千雪を知るものはきっとここにはいないだろうから、工藤にとってはめちゃ好都合だし、連中もまさかいつか襲った人間と同一人物とは思ってもいないだろう。
こんなことまでして、千雪に会いたいわけ?
良太は力が抜ける。
それでも―――
工藤を助けたい、良太は思う。
そう、決めたんだ。
ふらりと良太は立ち上がる。
工藤を見失ってしまったから今日の尾行はこれまでだな。
とぼとぼと歩き出した良太は、後ろから勢いよく、腕を掴まれた。
「やっぱり、良太か」
「千雪……さん」
メガネの奥から良太をじっと見つめ、良太が何か口にする前に千雪は言った。
「言うとくけど、良太の考えてるようなこととちゃうからな」
「俺に嘘ついても無駄です。嘘も方便、は俺には通用しませんから。千雪さんが嘘つきだって知ってるし」
「お前な………臨機応変、いうこと知ってるやろ? 心外な、俺は嘘つきなんかやないで。あん時はあれがベターな方法やったいうことやし」
千雪が襲われた時、駆けつけた警察官に、襲われたのは自分だと言い、お陰で警官は工藤に対して興味を持たなかった。
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