夢ばかりなる23

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 千雪も工藤を思いやっているのはわかる。
 工藤高広の名前がマル暴のリストから消えない限り、被害者となった時でさえ、工藤は痛くもない腹を探られることになる。
「笑ってもいいですよ。工藤の後つけたり。で、やっぱ工藤が千雪さんに会いにきたってことを思い知らされるなんて。ほんとバカなんだから、俺なんて」
 良太は自嘲気味に笑う。
「やから、そういうの、やめ、言うてるやろ? お前にそんな卑屈なこと口にしてほしいないんや」
「事実を受け止めようとしているだけですよ」
 ふうと一つため息をついて、良太は続ける。
「工藤が痛みを共有できる相手は千雪さんだけってこと……俺なんかに、これっぽっちもくれやしない」
 また、涙が溢れそうになり、良太は慌てて視線をそらす。
「まったく……」
 千雪は苦笑いを浮かべた。
「あのな、ほんまに大事な人を危険にさらしたくない、いう男心、お前かてわかるやろ? いつか、お前が工藤の身代わりみたいに刺されて生死さまよった時、工藤さん、どんな想いやったか考えてみ?」
「あれは、俺が勝手に……」
「にしたって、工藤さんを狙った犯人に刺されたんやからな」
 千雪は念を押すように言った。
「自分のせいで大事な人がどうにかなるの、身を切られるように辛いんや、あの人は」
「だから工藤は千雪さんを……」
「ええ加減にせいや!」
 千雪が声を上げたので、周りの学生がチラリと二人を見た。
 千雪は一呼吸おいて、続けた。
「ええか、これっぽっちも辛い目にあわせとうないから、お前になんも話さへんのんやろ」
「けど……」
 良太は唇を噛み、こみ上げる涙をじっとこらえる。
「それがほんとのことでも、そんなのただの自己満足じゃん。俺は……工藤のために何かしたいのに……何もできなくても、話してくれたっていいだろ? 危険なことなら、なおさら、俺はほっておけねーよ……万が一って思うと、不安で不安で……怖くて………俺……」
「良太…」
 千雪はカフェテリアを離れ、停めてあるレンタカーまで良太を連れていった。
「わかったから、良太、な。俺も工藤さんがお前のことほんま大事にしてるから、言わんかってんけど、やっぱ俺からやのうて、工藤さんから話してもらわんとな。お前の気持ち、工藤さんもわかってくれるて。せえけど無茶はしいなや?」
 とくとくと諭す千雪にコクリと良太はうなずく。
 良太がエンジンをかけると、コンコンと千雪が窓を叩いた。
「これだけは言うとくわ」
 良太がウインドウを下げると千雪が言った。
「何ですか?」
「昔の工藤さんやったら、良太が沢村にアメリカ行き誘われた時、何も言わんと行かせてたと思う。けど、それがどうもできひんかったらしい。何でかわかるか?」
「工藤は俺にとっとと行け、お前の代わりなんかいくらもいるって言いましたよ」
「アホやな、そんなん強がりに決まってるやろ。先月良太が風邪こじらせてぶっ倒れた日、ほんまは俺と打ち合わせ入ってたんや。けど、そういうわけやから、スケジュール変えてくれ、てドタキャンやってんで」
 千雪は言った。
「え………」
 じゃ、あの日やっぱ工藤はずっとついててくれたんだろうか……
 良太はまたこみ上げる涙を拭う。

 


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