「良太が工藤さんのこと信じてやらんかったら、どないすんね」
信じたい、良太もそれは思う。
だけど―――
「まあ、お前にはえらそうなこと言うけど、好きな人の前に立ったら、みんな不安になるもんや…心はわかれへんから」
「千雪さんが? いつもこれっぽっちも隙がないのに」
「お前、それ、嫌味やぞ。俺がどんだけじたばたして、周りに迷惑かけとるか……ま、とにかく、工藤さんて、強がり言うくせに、お前がおらんとおたおたしたりするんやから、あんまりいじめんとな」
千雪さんのの言うことは一〇〇%は信じられないけど、何せ、策略家だし……そう小説家とも言う。
…俺ばっかじゃ、ないのかな……
心の中で呟いてみる。
「あれ、なんかいい匂いだ。千雪さん、フレグランスとかつけてます?」
風にのって立ちのぼるかすかな香り。
「俺? いや、シャンプーと石鹸の匂いかな? 従姉がくれたやつ、結構ええ香りしてたし」
そんなに誰も彼もがフレグランスをつけているとは限らないのだ。
「思い出した!」
良太の脳裏に一瞬フラッシュバックしたもの。
「え、何?」
「いえ、それじゃ、すみません、急に押しかけて。また連絡します」
急にいそいそとエンジンをかけた良太は、バックミラーに心配そうに見送る千雪を見たが、とにかく先を急いだ。
信号で待っている間に連絡を入れると、うまくアポイントが取れた。
「俺だって、工藤を心配させたいわけじゃないさ。―――でも、あいつだけは確かめたい」
波多野樹。
広告代理店プラグインの藤堂に紹介された『MEC電機』の広報部長である。
CF撮影の時何か引っ掛かりがあったのは、波多野からあの時の男と同じフレグランスの香りを感じたせいだったのだ。
それに、こないだ俺が酔っ払った時、俺を部屋に連れてった時も、そう、あの香りがした。
指定されたのは、シティホテルの一室だった。
そこで商談が入っている。
その前の数分なら会ってもいい、波多野はそう言った。
危険なことなどない。
良太は自分に言い聞かせる。
あいつが何者か、本人に聞き出してやる。
良太はアクセルを踏んだ。
「良太のやつ、一体どこへ行ったんだ?」
慌てたようすでオフィスに飛び込んできた工藤は、いらいらとタバコをふかしていた。
鈴木さんに聞いても、良太は出かけたというだけだ。
下柳と打ち合わせだ、朝顔をあわせてスケジュールを確認した時、良太はそう答えた。
「あのやろう、最近、別行動なのをいいことに」
良太を危険に巻き込みたくない、それでまだ無事だったジャガーもここのところ工藤自身が動かしていた。
ベンツは襲われて入院している。
良太がもし隣にいたらと思うと生きた心地がしない。
そんなことを考えていた矢先、たまたま工藤が下柳に出くわしたために、良太の嘘が発覚した。
今までにも何度も良太は無茶をしている。
しかもご丁寧に携帯を切っているのだ。
「あのやろう」
そうしている間も、次の打ち合わせの時間が迫る。
「もしあいつが帰るか、連絡が入ったら、即俺に電話しろといってください」
鈴木さんに言い渡すとついクソッと口走り、工藤はまたオフィスを出た。
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