「まあ、冬の嵯峨野は好きやから、映像もみてみたいってくらいや」
けど、ま、はかなげな美人かと思ったら大間違いって感じだよな。
良太は、ついついまた向かいの千雪を見つめてしまう。
「わかった。あとキャスティングはどうだ? まだ内定だが」
「やから俺は関知せえへんよって、工藤さんにお任せしますて」
良太が渡した企画書をざっと見ただけで、千雪は答え、工藤から良太に視線を移した。
「良太は、どう思う?」
「え……」
面と向かって問われ、良太は思わずたじろぐ。
「えじゃないだろ、聞いていたのか?」
工藤の叱責が飛ぶ。
「き、聞いてましたよっ!」
うっかり千雪に見とれていたお陰で、ちゃんと聞いてませんでしたとは口が裂けても言えない。
「あとは飯、食うてからにしまひょ。もう腹ぺこやし。工藤さん、美味いもん食わせてやる言わはったから、俺、昼そこそこにしといたんや」
千雪の一言で、良太にまだ何か言いたそうだった工藤は料理を運ばせた。
千雪は出てくる料理をひとつひとつ美味そうに平らげる。
いつもなら、健啖振りを発揮するのは良太の専売特許のはずだが、何を食べても味気ない。
なんだ、美味いもん食いに行くか、って、別に誰にでも言うんだ、工藤…………
いや、違うか。
千雪さんにも当然言うわけだ。
そんなことを考えながら食べていたせいだろうか。
『春の夜の』は、歌人をモチーフにした作品だ。
西行やら実朝やら小野小町やら、歌人が詠んだ歌が謎を解く鍵、というのはこれまでも使われてきた要素だが、千雪はその歌人の生き方やその歌の想いにまで繊細な描写で綴っている。
老弁護士とその助手が活躍するという設定は変わらず、助手の若手弁護士役は、無論、第一弾から好評を得ている青山プロダクションの実力俳優、志村嘉人である。
良太が打ち合わせの話を聞いたのは昨日のことだ。
相変わらず急な話で、夕べはまだ読んでいなかった『春の夜の』をざっと読もうとして、ついつい夢中になって明け方を迎えてしまった。
「でも映画になったら歌人の繊細な描写は難しいですよね」
食事をしながら工藤がいくつか千雪に確認し、千雪の方は、工藤があげたキャスティングにしても、何も異論はない、という感じで終始していた。
そこへボソリ、と良太が口を挟むと、工藤も千雪も良太に顔を向ける。
「そういう繊細な描写を入れたいわけか? お前は」
「え、いえ、だから無理なのかな……と。だから千雪さん、いつも、映画になったらもう自分の手は離れるから、って言うんでしょ?」
素人が何を言うか、とでも工藤は思ったのだろうと、良太はバカにされるのを覚悟で言った。
「うーん、ていうか、映画であれドラマであれ、原作はあっても、それを使ってまた別の作品を創ることや、思うからな。例えば映画やったら、これが映画の醍醐味っていう表現で創られるし」
千雪は良太の素朴な発言に対して真面目に答えを返す。
「お前は、千雪の繊細な表現がない映画なんか千雪の作品ではない、とそう言いたいわけだな?」
イヤミじゃん、それ~
良太は工藤の言葉にむかつく。
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