何も千雪さんの作品にケチつけたわけじゃないのにさ。
心の中で愚痴ってもすぐ良太の顔に出る。
「俺はただ……、千雪さんの繊細な描写が映画では消えてしまうのがもったいないかなと……」
「ほう? もったいないってのはつまりできないわけじゃないのにということだな? じゃあ、具体的にどうやってその描写を映画にするんだ?」
「え……、それは、だから…」
んなこと、俺にわかるわけないじゃん!
「だからなんだ?」
突っ込む工藤に、良太はますますむっとする。
「だから実際この場所でロケして、編集の時、画像処理とかしてイメージを膨らまして……とか」
「だそうだ、良太プロデューサーの意見は参考にしとこう」
ちぇ、なんだよ、これみよがしに、んなこと言わなくたっていいだろっ!
工藤の言葉ひとつひとつが、自分をバカにしているように良太には思えてしまう。
何だか工藤に自分と千雪を比べられているようにしか受けとれず、良太はひがみに走ってしまう自分が情けなくなるのだった。
打ち合わせを終えて店を出ると、今にも雨がこぼれ出しそうな空は重く、湿気を含んだ空気に急速に体が冷えてくる。
三人は女将の手配したタクシーに乗り込んだ。
車内では『パワスポ』のことなど聞いてくる千雪と良太は少しばかり言葉を交わしたが、助手席の工藤は口を挟もうとしなかった。
やがて車は麻布に入り、千雪のマンションに近づいたらしく、その通りを右へ、と黙り込んでいた工藤が運転手に指示する。
そんなことでさえ、工藤と千雪の親密さを見せつけられているような気がして、良太は胸が痛くなる。
やはり工藤は千雪の部屋に頻繁に来ているのだろうか。
仕事なんだからくだらないことは考えないようにしようと良太は自分に言い聞かせるのだが、どうしても気持ちがついていかない。
「あ、その外灯の辺りでいいです」
千雪が運転手にいうと、車はすっと停まった。
「お疲れ様でした」
車を降りた千雪に良太は言った。
「ほなよろしゅうお願いします」
「また連絡する」
工藤が言うとドアが閉まり、車が動き出そうとしたその時、ばたばたと数人の足音が聞こえた。
何だろうと良太が振り返ると、ちょうど後ろに停まった一台からまた一人降りようとしている男が見えた。
「停めてくれ!」
工藤は言うが早いか、ドアを開けて飛び出す。
「なんや、あんたら!」
千雪の声だ。
良太も慌てて工藤の後を追う。
五、六人の男たちが千雪に襲い掛かったかと思うと、千雪の腕を掴んで傍らに停めた車に引きずり込もうとしている。
「貴様らっ!」
工藤が男の一人を引き剥がして殴りつけたが、三人がかりで工藤に襲い掛かり、その間に、二人の男が千雪を無理やり車に押し込もうとする。
「このやろ! 千雪さん、放せっ!」
良太は千雪の後ろにいる男に飛びかかるが、逆に突き倒されて転倒した。
「こいつ、ほんとに工藤のイロか?!」
「だろ? めちゃ美形だってからよ、早くしろ!」
ふらつく良太の耳に、そんな声が聞こえる。
どうやら若い半グレ風の連中のようだ。
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