「そんなんじゃ、ないって。ただ、ちょっと……いつか、言うよ」
苦笑いを返して、良太は口ごもる。
「何をもったいぶってるんだ? 実は沢村とできてます、なんてんじゃないだろーが」
いやあたらずとも遠からずなんだけど、と良太は心の中で呟く。
やがて、車は乃木坂の青山プロダクション前で停まった。
「冗談はさておき、かおりのこと考えてやれよ、少しは。ああみえて、根はもろいんだぞ」
車を降りようとして、良太ははたと肇の顔を見つめる。
「肇、お前、もしかしてかおりのこと………」
「肇、お前、もしかしてかおりのこと………」
「…何、言ってるんだ、とにかく、ちゃんと考えろ」
肇が乗った車を見送りながら、良太はうろたえた肇の顔を初めて見た気がした。
昔から熱くなった良太と沢村を止める役割に徹していたような肇だが、冷静なだけに怒ると怖い。
野球部の主将を務め、人望も厚かったが、そういえば浮いた噂一つなかった。
硬派なんだと思っていた。
「肇のやつ、ひょっとして高校の時からずっと………」
そんな肇に、かおりに告白されてつきあうことになったことから、あれこれ相談を持ちかけていたのか、俺………。
今もまだ結婚しないどころか、彼女も作ろうとしないのは、かおりがいるから?
かおりもまた、肇に例の会社の上司との不倫を相談したりしていたみたいだし、高校を卒業してからも二人はそれなりに交流が合ったらしい。
だったら俺たち、かおりと俺、ほんとバカじゃん………
何とかしてやらないとな、肇のこと。
良太はしばらく突っ立ったまま、夜空を見上げた。
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