ACT 3
忘れていたわけではなかった。
注意はしていたつもりだが、工藤との秘密の逢瀬に浮かれていたのかもしれない。
新しい内閣が誕生したものの、首相は同じ、大臣の顔ぶれもそう目新しいものはなく、今度の内閣への期待も大きくはないと数日取り沙汰されていたが、やがて世の中は猛暑日の気温がどこそこで最高を記録したというような話題へとすり替わっていた。
「大阪には九時到着予定です。明日は羽田に四時にお迎えにあがりますから」
夕方、エレベーターから駐車場に降り立った良太は、運転席のドアを開けた。
工藤が乗り込むと、羽田へと車を走らせる。
工藤は今、映画のスポンサー契約のことで奔走していた。一社だけ揉めているところがあるため交渉が長引き、大阪の本社に何回か出向いていた。
翌日また、工藤を羽田まで迎えにいき、会社の駐車場で工藤を降ろしてすぐ、警備員が良太を呼んだ。
「俺に? 電話ってそこですか?」
良太は訝しげに警備員のいる窓口に行った。
「はい、広瀬です。どなたですか? もしもし?……」
確かに繋がっているようだが、雑音のような音が聞こえるだけで、相手の声は聞こえない。
「何だよ、これ…」
首を傾げながら戻ってエレベーターに乗り込んだ。
何となく胸騒ぎがした。
工藤は先にエレベーターで社長室に上がっている。
数字は6を示していた。
ドアが開くまでがもどかしい。
「工藤さん!!」
飛び出した良太は、社長室の前で工藤が蹲っているのを見て駆け寄った。
「くっそぉ、逃がしちまった。非常口だ…」
工藤は左腕を押さえながら、唸るように言った。
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