「しかしあり得ないことじゃないですね。きついことを言うつもりじゃなくても新人はいじめられたと思うかもしれないし、大御所や脚本家なんかには生意気と思われるかもしれない言動がありますからね」
淡々とアスカ評をする秋山に、「ちょっとお、秋山さんまで、ひどーい!」とアスカが文句を言う。
「まあ、ターゲットがアスカさんやのうて、江藤の方やいうセンもないとは言えんしなあ。確率は低いやろけど」
「そのセンもありましたよね」
さらりと自分の見解を口にする千雪に、良太も頷いた。
「何よ、良太まで!」
「とにかく怪しいモンは片っ端から探るしかないだろう。明日からマスコミ対策もあるし、アスカ、軽井沢にでも籠っていろ」
立ち上がった工藤は出かけるらしく、セカンドバッグを抱えた。
「せえけど、軽井沢もここの会社の別荘やてすぐにわかってしまうんやないですか? ホンマに重要な事件ではそこまで動かんのに、不倫沙汰なんかやと喜んで飛びつくんやからな、マスコミは」
千雪が不快そうに言った。
「だったら、ユキんとこ、泊めてよ。あそこならセキュリティも万全だし」
「あかん。万が一知られよったら今度は京助とスキャンダルとかって、京助はどうでも、アスカさん、さらにまずいことになるで?」
千雪は即座にアスカの提案をぶった切った。
「しかし、今日のうちに動いた方がいいですね。どこか、うまく隠れられるところがあればいいんだが」
秋山もいい案が浮かばず、イラついていた。
「よう、めんどいことになったな」
その時オフィスにやってきたのは、嘱託カメラマンの井上だった。
井上も人脈が広く業界の噂や情報を察知するのが速い。
「万里子が心配して、どんな様子か見てこいっていうからよ」
「万里子さん、今ロンドンじゃなかったですか?」
映画の撮影で一か月いないはずだと、良太は万里子のスケジュールを思い出した。
小野万里子は井上の妻で、今は独立したが青山プロダクションに所属していた俳優である。
「電話があった時、俺がちらっとアスカのこと言ったもんだから。ほら、あいつも昔、事務所の所長と不倫騒動でしばらく仕事干されてたからよ」
腕組みをして井上はさらりと言った。
「そういえば、そうでしたね。でもあれは事務所の横暴所長が結構自分とこのタレント食い物にしてたって話で、万里子さんには同情票が集まってたじゃないですか」
こちらも業界の情報には詳しい秋山が言った。
「そんでもさ、結構女が悪者にされちまうじゃねえか」
井上の言わんとしていることは、良太にもよくわかった。
今回も、江藤よりもアスカが叩かれるだろうことは目に見えていた。
「おう、そうだ、アスカ、行き場がないんだろ? うち、使えよ。俺もしばらくアメリカ行くし、誰もいねえから。武蔵野の奥の一軒家だし、秋山さんがついててやれば?」
思いがけない提案に、出かけようとしていた工藤も立ち止まった。
「そいつは有難いな。万里子が承諾してくれるんなら」
「ああ、これ、万里子の提案だから、全然すぐにでもOK」
工藤にそう言うと、「わり、これから羽田なんで、これ、鍵」とポケットから家の鍵を出してテーブルに置き、「状況知らせてくれよ」と手をひらひら降って井上は出て行った。
「秋山、早速アスカを連れてってくれ」
「待って、念には念をで、ここ出る時もアスカさんやとわからんようにせんと」
工藤を制して、千雪が言った。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
