「アスカさんも変な色のジャージとか黒縁眼鏡とかで変装するとか?」
良太が千雪を見て苦笑する。
「やあだ、ユキのあのみょうちきな変装、あり得ない~」
アスカが心底いやそうに言うと、みんなが笑った。
お陰で妙に張りつめていたオフィス内の緊張感が少し緩められる。
「とにかく、秋山、アスカを頼むぞ。良太、どんな情報でも聞き逃すな」
そう言いおいて工藤は出かけて行った。
しばらくアスカが今後どう対応するかについて千雪と良太、秋山はああでもないこうでもないと話し、アスカがそれをまぜっかえして時間が過ぎていったが、ほとんど建設的な意見は出てこなかった。
鈴木さんが出前で寿司を取り、みんなで早い夕食を済ませると、良太が持ってきたジャージで、千雪の言うアスカとわからなそうな変装を施した。
「いいわよ、これで。要はばれなきゃいいんでしょ?」
ジャージの上下を着せられ、キャップを被せられたアスカはうんざりした顔でため息をついた。
「まったくこちらとしては身に覚えがない話なので、記事が出たところで、記者会見を開いて小田さんから潔白を主張し、文化芸能に対して提訴するのも辞さない姿勢を表明してもらいますが」
良太は勢い込んで言った。
「とにかくどんな記事なんか見極めて、それによって証拠固めしとかんとな」
千雪も腕組みをしながら考え込んだ。
「もう、加藤ら動いてもろてるし」
普段、だらっとしていても、こうと決まったら千雪のやることは素早い。
先手先手と行くから、思い込みで見当違いの容疑者を追っている警察なんかより早く真犯人に辿り着くのだ。
「何にせよ、ドラマがクランクアップした後でまだよかったんだが、こんなろくでもないことをやらかすのは、ったくどこのどいつだっての」
いつにもまして秋山は怒りが収まらないらしい。
心配そうな顔のまま鈴木さんが帰ると、外の様子をうかがいながら、千雪がアスカを乗せたジャガーを運転して、まず会社を出た。
そのあと今度は秋山がマンションから自分のアウディを取りに行き、良太を乗せて武蔵野へと向かう。
「どこかでまとめて食料調達していかないと」
「そうだな」
助手席の良太は、万里子と井上の家に近いスーパーを検索する。
「あ、ここ大きめだし、九時まで開いてますよ」
二人は良太が見つけたスーパーに入ると、良太が押しているカートに、秋山がてきぱきと食料品を放り込んでいく。
「彼女は作ったりすることはありませんからね、レンチンできるものがメインです」
冷凍食品から牛乳、炭酸水、ワイン、パンや日持ちのする総菜など、それにキッチンペーパーやティッシュなどの日用品まで、アスカの好き嫌いを熟知した選択で、秋山はいっぱいになったかごを二つ、セルフレジでたったか決済する。
それを横目で見ながら、今回の一件がまったくもってデマなのだという一番の理由を、良太は秋山に言えないことがもどかしかった。
すなわちアスカが好きなのは秋山で、その秋山とほとんど行動を共にしているアスカに、他の誰かと不倫でなくとも付き合うような余裕はどこにもないということだ。
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